エフピコダックス株式会社 福山選別工場

従業員数 21人
障がい者数合計 15人
知的障がい 15人

 エフピコダックスは株式会社エフピコの特例子会社である。エフピコグループで雇用されている障がい者数は377名であり、そのうち90%が知的障がい者(うち73%が障がいの程度が重度)である。障がい者雇用率換算数は649名となり、障がい者雇用率は13.78%(2018年3月現在)、これは、一部の報道によると日本トップクラスの雇用率である。エフピコダックスは障がい者を基幹業務において正社員雇用するという方針であり、1986年より多くの障がい者が戦力となって働いている。事業内容は、「食品トレー・容器の製造」と「使用済みトレー・容器の選別」といったリサイクル業務であり、福山選別工場では15人の知的障がい者(うち半数が重度の障がい)が主に使用済みトレーの選別を行っている。障がい者が手作業で選別することにより、生産性と確度が大幅に上昇したことから、企業への貢献度も非常に高い。2014年度「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれた。
 エフピコダックスの経営方針は「経営として成り立つ障がい者雇用を行う。だからこそ障がいのある人の力を十分発揮してもらう」であり、これまで「働いて生きる」ことを着実に体現してきた。福山選別工場でもそれは変わらないとマネージャーの且田氏は話してくれた。


本人の気づきとモチベーションを高める


 ここでは障がい者がやる気をもって仕事ができるような取り組みをしている。且田氏は、目標をクリアしたときの評価をどのようにすれば、彼らに伝わり反応するか考えた。例えば1ヶ月ごとに「◯枚やります」と目標を立て、選別枚数を月間平均6500枚/時出すとなると、そのデータをきちんと出す。振り返り会で、その結果が6499枚だった。その時は、「未達成」というところから教えていく。最初は「あんなに頑張ったのに、たった1枚なのに」と本人たちは言う。だが、「そうではない。この1枚が会社という所にとっては、100か0かに分かれていく」ということを何度も何度も教える。そうすると、何度も何度もその目標を立てては繰り返して、達成した時には本人は喜びのガッツポーズで「やったんだ!」と実感する。その様子は周りにも伝わる。会社側がその達成がどこか、どうすれば達成するのかを「明確にしてあげる」ことはとても大事と思っているとのこと。この経験を通して、目標を追うということがどういうことか、そして、その目標を達成し、これが仕事をするということであると気づく。そのプロセスで本人のモチベーションも高まり、会社や周りから評価されてさらに高まる。そういった一連のプロセスを丁寧に踏んできた。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 「正直、誰もが100%(仕事が)出来る様になるかというとそうではない」と且田氏は話す。同じ10年を積み重ねても作業効率だけで言えば、100まで伸びる人もいるが、1のままの場合もある。それぞれに障がいを持って生まれたため、それだけ大差がつくのは当然。ただ、ここでは、100の人は1の人を責めない。「◯◯さん、作業があんまり得意じゃない」と思ったとしても、それでも、「無遅刻無欠勤で来ているから、◯◯さんはすごい!」と出来ていることを認めあう。このような雰囲気に職場がなれるというのは、チームで仕事をするという事においては、とても大きな力を発揮すると思うとのこと。
 ただ、この状態になるためには、本人たちや親御さんと「ここはチーム力で成り立っている」という共有を入社当初から時間をかけてしていく必要がある。そうでなければ「うちの子とあの子はあんなにしていることが違うのにお給料が一緒なのか?」という苦情になりかねない。ここのスタンスは、作業効率だけで評価するのではなく、毎年、その人に応じた目標を設定し、それに対する到達率というのを評価していく。親御さんに「なぜあの方のお給料がうちの子より」と聞かれた時に、これが根拠と言えるようにしておく必要がある。それがしっかりできていれば、作業効率という1つのものさしだけで評価はしないため、本人たち同士は認め合うようになる。明らかに自分より作業能力が低いが、「あの子すごいよね。毎年目標クリアして休まずに来て」と評価のものさしが増える。「入社時に比べたら大きく成長した」ということを、障がい者同士でも理解しており、彼ら同士でサポートし合う姿も普通に見られる光景である。
 且田氏は「チーム一丸となるためには、何はともあれ理念共有がとても大切」と話す。何のためにこの会社があって、何を目指しているのか。そのためにどうしたいと思っているのか。そこを、障がい者に限らず親御さんも含めて、スタッフとも常に理念を共有し、その理念を大切にしていくことが必要。そこがしっかり伝わらなければ、どんなに小手先で数字を触っても、どんなに福利厚生を整えても、チームとして、組織として長続きしないのである。


失敗しながら成長に向けて挑戦する


 「やりたくないから、やらなくていい」というのは仕事ではない。特性と趣味嗜好との線引きは明確にすべきと考え、そこへの対応は非常に厳しい。且田氏は「これは苦手、これはしたくない、これは難しいからしなくていい、やらなくていい」というのは個人的には合理的配慮ではないと考えている。彼らが分かるように工夫をして、なぜこの仕事が必要なのか、なぜこれをしなくてはならないのか、こちらが執着心を持って伝える。彼女はそれが合理的配慮だと考えている。
 例えば、ここはトレーの選別をした数字(作業効率)がカウンターで出る。ある人が、明らかにだらだらと作業をしていて、今日の数字がいつもより、例えば5000枚少なかった場合、その時に、「手が動いていないよ」「もっと一生懸命動かして」というのは誰でも言える。本当の作業指導とは、例えば動画でその様子を撮り、それを本人に見せて、「どっちの手の動きが早い?」と答えてもらう。そして、「今日のあなたね、こっち(遅い方)なの」と言うと、本人は「え?」となる。そして、「こっちの手の動きで今日の生産がどれだけ少なかったか教えてあげよう。5000枚(少ない)」と言うと、本人は「5000枚!?」と驚く。ただ、私たちであれば5000枚の概念は何となく分かるが、本人は5000枚という概念が分かっていない可能性もある。そのときは5000枚のトレーを一緒に数える。山になっていくトレーを見て、本人は驚く。そのときに「どうしないといけない?」と聞いたら、本人は「一生懸命手を動かさないと」と答える。
 しかし、そこで終わらない。この5000枚がその後どうなるか教えるために、隣のトレーを作る工場まで行って、この5000枚がリサイクル工場でこのトレーの量に生まれ変わることを説明する。さらに、これがいくらでユーザーに渡るか教える。そして、「あなたの今日のこの差で会社はいくら損をしている。だからやってほしい」と伝える。これが合理的配慮であると思っているので、彼らにいかに伝えるか、プレゼンするかを常に意識して、作業指導をしているそうだ。
 掃除をする場合も「綺麗にね」と言っても、「綺麗に」の概念は人それぞれ違う。それならば、「10分でこの状態になったら綺麗」ということを教えてから仕事をしてもらわないといけない。その明確な基準をしっかり伝えて、理解してもらい、「頑張るってこういうこと」「頑張らないってこういうこと」を伝える。10分でしなければならないことが、10分1秒だと、どれだけやっても、会社の中では丸(仕事ができた)にならないことを教える必要がある。そこを省くと本人の大きな成長を止めることになると話してくれた。
 本人に「仕事をすることがどういうことか」理解できるよう何度も伝え、本人に気づかせる。具体的に示し、工夫しながら理解できるように何度も何度も伝え、やってもらう。これが知的障がい者に対する合理的配慮である。


「それでも『仕事』だと言い続けた」


 重度(障がい)の方が多いので、スタートした当初は、漏らした、泣いた、パニックを起こした、逃げた、取った取られた、好き嫌いの連続だった。「◯◯ちゃんに◯◯と言われた」と泣いて、仕事が手に付かないとか、◯◯さんに取られたとか、蹴られたとか、そういう事の繰返しだった。ただ、それでも言い続けたことは「仕事でしょ。お給料を払っている。あなたが辞めたり、あなたがさぼったり、あなたが仕事をしないと会社は困る」という事を、本人と親御さんに言い続けた。そうしているうちに、問題が起こるスパンが段々と長くなってくる。気づけば、半年、何も起こらないようになった。この領域まで10年間で至り、今は本人たちが仕事をすることがどういうことか理解をしているとのこと。
 且田氏は「本人と親御さんが働きたい気持ちがあって一生懸命やっているのであれば、できないところがあっても、何があっても手放さないし、どんなところでも見捨てずに向き合う」と話す。この言葉通り、実際にそれを積み重ねることで、親御さんとの信頼関係を築いてきた。一旦信頼してもらうと、強力なサポーターとなってくれる。本人と一緒に親とも向き合って、プレッシャーにならない程度に教育をし、親も子ども共に育ってきたのだ。


リタイアした後も誇りをもって豊かに生きるために


 障がい者が30〜40年働いて、そろそろ就労の場をおりたいとなったときに、福祉のサポートと連携が必要になると且田氏は考えている。高齢化したときの施策が何もない状態で企業に雇用を求めても企業は二の足を踏む。例えば、20年間以上雇用を継続しているところへインセンティブとして、助成金や補助金が使われることが有効ではないか。また、働き終わった彼らが誇りを持って活動できる場、安心して住める場所、サポートを受けられる場は本当に必要だと思う。福山では雇用をしている障がい者も多いため、地域の他企業や団体と別法人を立ち上げ、グループホームやハッピーリタイア後の生活介護の場を作っている。生活介護の場では、フルタイムは難しい人が約4時間~6時間、作業療法士や看護師のケアを受けながら、できるだけ長く働き続けられるよう、そして月6万円の給料がもらえるように環境を整えた。生活できるだけの工賃を手にすることができれば、これまで働いてきた彼らの誇りを失わずに仕事を続けることができる。且田氏は仕事をしている彼らに敬意を払い、つねに誇りを大切にしているのだ。


「誰かの役に立ちたいという気持ち」


 重度の知的障がいのあるAさん。入社当初は体力がなく、1日数時間しか立つことができなかったため、ほとんど仕事にならなかった。毎日、トレーニングを続け、今では、フルタイムでしっかり勤務している。ある時、皆でテレビを見ていたときにAさんが突然泣き出した。様子をうかがうと、乙武洋匡さんの車椅子姿を見て「彼は大変だから、僕の給料を彼に寄付してあげないと」と思ったようだ。その時、且田氏はハッとしたという。どんなに障がいが重くても、「誰かの役に立ちたい」、「社会に貢献したい」と思っているのだと衝撃を受けたそうだ。働くことの可能性と大切さをAさんから改めて教わった。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「本人のセルフケア力:5」「現場のサポート力:5」「外部の支援力:0」

それぞれの力を掛け合わせたときに、5×5が25で1番大きい。本人と親御さんが5、会社が5となれば対等。どちらかのバランスが偏ったり、貢献犠牲を払っては駄目。「親御さんと本人」:「会社」が5:5の力を出し合うところで最大限の効果を出したいと思う。