国立大学法人 金沢大学

    法定雇用率換算=2.55%
職員者数
3,953人 2,709.5人
障がい者数合計 43人 69人

 金沢大学は石川県金沢市に位置する基幹的総合大学であり、人間社会学域、理工学域、医薬保健学域の3学域17学類と、各学類に接続する大学院7研究科が設置されている。「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」の位置付けの下、グローバル社会をリードする人材の育成と世界に通用する研究拠点の形成を目標に定めている。また、全学的な大学改革プランとして策定した「YAMAZAKIプラン」では、目標の一つとして「地方創生に向けた社会と大学の協働による事業の展開」を掲げ、社会と大学との協動による持続可能社会の構築を目指す。大学と地域が連携して地域の課題に対応する取り組みとして、NPOや自治体などの団体と共にコミュニティ構想に関する授業の実施も掲げており、「社会連携」という視点は同大の中で欠かせない柱の一つとなっている。


社会福祉法人佛子園とのかかわり


 社会福祉法人佛子園が運営する共生福祉施設「Share金沢」は同大角間キャンパスと程近く、また理事長が同大卒業生ということもあり、大学と福祉の新しい連携のかたちが次々に生まれている。これまでも同大と佛子園は、地域創造学類や医学類の学生実習や授業、インターンシップやサークルなど様々な活動を協力して行っていたが、さらに連携を強化するため2017年に包括連携協定を締結した。
 同大の社会共創推進の担当者は、今の日本の課題に先進的に取り組み、注目されている法人がキャンパスのすぐ近くにあり、授業や課外活動など様々な連携事業が進められていることが学生にとって良い刺激になっていると話す。「Share金沢」についてや福祉・まちづくりを考えるきっかけになっており、「何気ない挨拶が自然に交わされる交流の場をつくりたい」と担当者は意気込みを見せている。また、事業の実施にあたっては、学生が体験を通して学び、さらに地域の人と関わる中で多くの経験を得られるように、佛子園の担当者と相互に意見を出し合い、学生と職員らが一体となって企画を進めているそうだ。
 また、文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+事業)」の採択を受けて発足した「いしかわ学生定着推進協議会」には、大学や自治体、企業、団体等と共に佛子園も参加しており、協議会では学卒者の石川県内定着を促進するため「オールいしかわ」体制で学生をサポートしている。同大と佛子園との交流や連携は年々活発になっており、今後の動きから目が離せない。


佛子園が運営する特別食堂がキャンパス内にオープン


 2018年には、特別食堂として佛子園が運営する「YABU&CAFÉ 丹」が角間キャンパス内にオープンした。店内では、ブータンの大地で育った蕎麦の実を毎朝製粉・製麺した「藪蕎麦」とこだわりの自家焙煎コーヒーを提供している。落ち着いたおしゃれな雰囲気で、静かな場所に位置するため、ほっと寛げる空間となっている。「YABU&CAFÉ 丹」は就労継続支援A型事業所であり、ここで働くスタッフには障がいのある人もいる。接客や調理補助、蕎麦の製粉製麺等が彼らの仕事となっており、様々な働き方を提供している。
 同大の施設企画担当者にこの特別食堂のオープン経緯を聞いたところ、企画競争で運営事業者を公募して、様々な基準で審査を経た結果、コンセプトや実施内容・品質・管理・経営などが評価され、佛子園が選定されたとのこと。障がい者雇用が先にありきではなく、一事業として運営されている中でスタッフに障がいのある人がいるという感覚であるそうだ。現在、利用者のアンケートをしており、店内の対応等、満足度が高い結果となっている。

「大学のキャンパス内にあるからこそ」
 佛子園の「Share金沢ワークセンター」の就労支援員であり、「YABU&CAFÉ 丹」のスタッフである舘氏は、「この地域を考えた時に、『Share金沢』から車で5分の距離にある金沢大学は外せない要素」と話す。「YABU&CAFÉ 丹」が同大のキャンパス内にあることで、学生や職員、地域の人が佛子園や「Share金沢」の取り組みを知るきっかけになり、いろいろなコミュニケーションにもつながっている。
 また、「YABU&CAFÉ 丹」は特別食堂という位置付けで、もてなしができる場にしてほしいとの大学からの要望を踏まえ、来訪者と交流する際の利用を想定しているそうだ。実際に市長の利用があったり、歓迎会や送別会が催されたりすることもある。舘氏は「ここでの食事代は来訪者のもてなしを想定した1000円前後と、学生にとっては高額。この価格でもおいしい、心地いいと思っていただける料理や接客のレベルはしっかり目指したい。今後は、就労支援事業所のしごと作りなどの分野で大学の研究へとつなげていけたら」と笑顔で夢を語ってくれた。


金沢大学の障がい者雇用


 同大での障がい者雇用について、人事担当者によれば、「多くは清掃スタッフとして働いてもらっているが、今後、障がい者の法定雇用率の上昇を見据えながら、いろいろな働き方を模索している段階」とのことであった。「YABU&CAFÉ 丹」での障がい者就労のあり方も参考にしているそうだ。


ジョブコーチの大切さ


 清掃は約30名の障がいのあるスタッフに対し、5名程度の企業内ジョブコーチがマネジメントやコーディネートをしている。同大は、障がい者のきめ細かい指導を行うジョブコーチを重要と考えており、今後も障がいのあるスタッフはすべてジョブコーチが受け持つ体制を大学で整え、制度を拡充していくことを計画しているそうだ。ジョブコーチの存在は、障がい者の定着やその家族の信頼を得ることに大きく貢献しており、他の事業所では上手くいかなかったスタッフもきめ細やかな指導の下で働いている。拡充に向けて、ジョブコーチのスキルアップも目指しているそうだ。


「セルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


「セルフケア力:4」「現場のサポート力:4」「外部の支援力:1〜2」

 同大では、障がい者本人の努力、企業内ジョブコーチの指導、外部機関の支援協力・家族の協力があって、障がい者の就労が成り立っている。
 企業内ジョブコーチが研修などで外部機関の協力を得ながら、障がいのあるスタッフを理解して、本人の努力もしっかり受け止め、ジョブコーチとスタッフが共に成長していくのが理想である。


公的機関も含めた様々な機関・法人✕障がい者雇用の新たな可能性


 この特別食堂運営事業では、同大は直接障がい者を雇用していないが、佛子園の障がい者雇用の取り組みから、大学での障がい者雇用にも、少しずつ学びがあると話をしていた。直接雇用でなくても、同大と佛子園のようなスタイルで障がい者雇用に結び付けていくことは可能ということである。今回は企画競争の公募で佛子園の特別食堂運営が決定したという経緯であったが、今後は、大学など公的に近い機関や法人が運営するカフェや食堂で障がい者が働くスタイルもあって良いはずである。公的機関も含めた様々な機関・法人と障がい者雇用を結びつける新たな切り口のヒントがこの場にあるような気がした。