株式会社 ジェイエスキューブ

従業員数 1,306人
障がい者数合計 25人
身体障がい 10人
精神障がい
(うち統合失調症)
(うち発達障がい)
15人
1人
14 人

 株式会社ジェイエスキューブは、企業のソリューション提供、人材派遣、データ入力のサービスを行っている企業である。企業内に、特例子会社のような専門の「JOBサポートG」というチームを作り、その中で4名、発達障がいの方が働いている。主に、庶務業務の一部や、社内各部署からの受託業務をチームで行っており、その内容は代表電話応対や社内郵便、文具・入館証の払い出しや室内清掃、書類の整理などである。依頼のあった部署のファイリングやスキャン作業などを手伝うため、部署に派遣されることもある。依頼者からは、依頼通りにかつ丁寧に取り組む仕事姿勢が高く評価され、JOBサポートGの存在が社内に口コミで広まっている。リピーターだけでなく、新規案件を持ち掛けられることも多い。
 発達障がい者雇用の先駆けとして、リーダーの井田泰正氏や当事者の方が外部で講演を行う機会も増えており、それが親会社の社内報(グループ企業にも配布)で取り上げられた。他の社員が自社の障がい者雇用について知る良いきっかけになったという。

 「発達障がい者は会社の中で、自分の居場所を感じられるようになると定着しやすい傾向にあると思います。発達障がい者の多くは人間関係で誤解されやすく、そのため社会で十分な成功体験を積んでこられなかった場合が多い。入社当時に自信はなくても、ここでの仕事を通して“社会人としての自分の居場所”を見つけてもらいたいと思っています」リーダーの井田泰正氏はこう語る。実際に発達障がい者の一期生2名の方は勤続10年目に入っている。


個々の特性や強みを活かす


 ここで働くA氏は、前職でつまずいたことがきっかけで障がいが明らかになった。アスペルガー症候群と診断され、手帳を取得した。その際に、A氏は自分の障がいを洗い出し、ある程度まとめる作業が必要と感じたため、現在のナビゲーションブック(以下、NBとする)の前身となるものを作成した。入社後、井田氏の依頼を受け、改訂し、現在のNBが出来上がった。
 井田氏はNBに似たものを9年前から面接時に使っていたそうだ。「本人が自分の障がいとその対処を洗い出しできていることが最も大事。前提として、答えたくないことを無理に聞きだそうとはしません。しかし、『入社後の合理的配慮を検討するため、あなたの障がいとその対処法について、できる限り教えてください』とお願いします。障がいのことを話すと就職に不利と考えている方がいますが、弊社ではむしろ自己分析ができ、またその対処法を獲得している人材を高く評価します」と井田氏は話す。
 本人のこと、障がいのことをよく知った上で採用する。それを管理者間で共有し、入社後も本人の様子を見ながら、特性や強みに応じた仕事を割り振る。必要があれば、他の障がい者にも口頭で伝え、現場が上手く回るようにさり気なく配慮している。リーダーの井田氏はそれを「障がい者雇用の現場で自然に根付いたものだ」と話すが、そこに至るまでの緻密なマネジメントと配慮の積み重ねが確かにある。


理念や目標を共有し、チームで仕事をする


 JOBサポートGでは、1つの仕事は2人以上でやるようになっている。やった仕事をチェックする、弱点を補い合うという理由で1人にだけ負担はさせない。例えば、スピード感はあるが、イージーミスが出やすいADHDの人に処理してもらい、なかなかスタートできないが、慎重なアスペルガー傾向の人にチェックしてもらうと上手くいく。同じような弱点がある人とは組まないようにしているそうだ。
 A氏は、障がい者同士、お互いを知らないときは「彼は私より◯◯が苦手」と偏って思っていた時があったようだが、相手を知っていくことで、「ここは彼に任せたほうがよい」と思えるように変わった。その時に、自分の方が仲間に助けられていると気づかされる。こういったことは、現場では多々あることだという。いつでも、できること、苦手なことをお互いに伝え合う。仕事を通してお互いの特性を見直し合うから、チームが上手く回っているのだと話してくれた。


「シェアすることで仕事を多角的な角度で完成させる」


 JOBサポートGでは、隠し事をしないで、困ったら「困った」とSOSを出し、「これは苦手」と相談し合える環境をつくれるよう常に意識していた。ここでは支え合うことがキーとなっているようだ。なお、対外的な折衝はリーダーとサブリーダー(両者とも障がいのない人)が行い、仕事の質と量をコントロールするという。ただし実務に関しては担当者(本人)の気付きと成長に期待して極力介入は控えるとのこと。
 本人たちが自身の特性や強みを活かせるような環境があり、同様に、他者の特性や強みも尊重し、それらを活かせる環境がある。そして、リーダーたちの自主性を尊重しながらコントロールするといった適切なマネジメントがあり、チームとして質の高い仕事ができる。障がい者同士、リーダーとサブリーダーそれぞれが役割を持ち、互いに任せ合うことで、チームが適切に機能していた。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


井田氏:三角形でそれぞれが対等であること。同じバランスがよいと思う。

A氏:「本人のセルフケア力:4」「現場のサポート力:4」「外部の支援力:2」


 基礎として自分自身の土台が必要なのでセルフケア力は4。セフルケア力とは、生活環境としての家族とそれを維持するための自分の体力、回復力、伸びていくための向上力だと考えている。セフルケア力にプラスして現場のサポート力はあると、この上ない力になると思う。会社や同僚との信頼、居場所の実感がある。外部の支援力とはお医者さんや就労移行支援のその後のサポートと考えている。


A氏のこれから就職を目指す障がいのある方へのメッセージ


 受け手によって変わってしまうと思うので難しいと思いますが、「めげないで頑張ってほしい」というのは当然根本にあります。ただ、その反面として、言っておくならば、「障害者だけが何かもらえる社会じゃない」ということはあらかじめ覚悟しておかないと、こんなはずじゃなかったのに、とがっかりしてしまうんじゃないかなと思うところがあります。障がいを受け入れるって、すごく難しいと思うんです。私自身も、「障がいを受け入れて…」と言いはしますけど、正直に言えば、まだ受け入れている途中です。受け入れた、と思っても、次の日にはひっくり返されて、でも受け入れて、の繰り返しですけど、それも含めて自分たちで受け止めていかなければならないので…。自分にできる事を常にちゃんとやろうとすることで、社会に貢献していく姿が見せられれば、相手も人間なので、そういうところは障がいの有無を超えたところでいつか気づいてもらえるんじゃないか、ということをみんなと共有したいですね。

 A氏は、はにかみながらも自信をもった素敵な眼差しで、そうメッセージを送ってくれた。