株式会社 美交工業

従業員数 158人
障がい者数合計 21人
身体障がい 2人
知的障がい
19人

 同社はビルメンテナンス事業からスタートし、公共施設の清掃業務や指定管理者として公園の清掃・維持管理も行っている。特別養護老人ホームの清掃を請け負う中で、利用者さんに植物を植える体験をしてもらうなど園芸福祉活動も行っていた。障がい者雇用のみならず、公園の維持管理のためにホームレスを採用したり、社会復帰を目指す精神障がい者の実習の受け入れをしたりと、地域も含めたコミュニケーション=繋(つながり)を大切にした事業活動を行っている。


「一人分としてやってもらう」


 総務係長の佐藤氏は専務の福田氏から13年間多くのことを学んできた。福田氏が大切にしていることを聞くと「自社では福祉事業を行うつもりはない。障がいのある人の尊厳を守り、障がい特性に配慮することを大切にしながら、特別扱いするのではなく、きちんと一人分の仕事をやってもらえるように会社が努力する」という回答が返ってきた。障がい者が自身の能力を発揮し、一人分の仕事ができるよう、環境を整え続けてきたのである。


「心の声は汲み取れないかもしれない」


 総務係長の佐藤氏は、知的障がい者一人ひとりが、「なにを感じ、考え、どのように思っているのか」ということにいつも気を配っている。本人に聞いても、「心の声」を汲み取れないことがたくさんある。本人が「何を考え、どのように思っているのか」知的障がいのある人たちは、自分の感情を上手く表現できない人が多いため、会社・支援機関・家族等、それぞれの立場が連携し、本人(当事者)にとって最適な環境を考える。だから本人も入れて皆で話し合って決めていく。
 分からないからこそ、いろいろな可能性を考えながら、慎重に話し合って決めていく。人の人生を大きく左右することだからこそ真剣だ。佐藤氏の姿勢には、障がいのある彼らを少しでも理解したいとの想いから、彼らやその家族と真摯に向き合う覚悟があった。


失敗しながら成長に向けて挑戦する


 入社する人は大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(愛称:エル・チャレンジ)で清掃の訓練をした人を雇用しているため、清掃とはどういうものか、ある程度分かってから来るのでやりやすいと話してくれた。しかし、実際には清掃道具を忘れて帰ってくる、お腹が痛いと言って出社が不安定になる、仕事が終わる前に病院の予約をしてしまい早退をするなど、日常ではいろいろなことが起こる。本人の特性を考慮しながら、支援機関も入れて、その対処方法を考え、本人も交えながら話をしたり、説得をしたりする。本人が納得して1つずつ進めていくうちに、ある対処法がピタリとはまり、急に解決することもある。それまでは、支援機関も含めて知恵を絞りながら試行錯誤を続けるのである。何度も失敗しながら、本人が成長できるよう、本人には何度も何度も伝え、対応し続けていた。


柔軟であるための「あそび」をもつ


 「お腹が痛い」と7時に出社できない人がいて、支援機関も入ってもらって、理由を聞きながら「働きたいけど、しんどい。でも給料は欲しい」という話し合いを繰り返し、支援機関が付き添ったり、佐藤氏が出社する前に付き添ったりしたが、来られなかった。一旦、7時半を出社時間にして来られるようになったが、また遅刻を繰り返すようになる。そうすると遅刻に対する本人の罪悪感もあって、また来られなくなり、8時でも来られなくなり、8時半にしたら今は落ち着いて来られるようになっている。ここまで来るのに何ヶ月もかかった。
 彼の仕事時間の6時間を守れるのであれば、公共施設は5時まで開いている。専任支援者も5時まで勤務しているので、出社時刻を変更することはできる。朝早く入ってほしい仕事はあったが、それは他の人に替わってもらえたので出社時間を変えることができた。他の社員からも不満はなかったようだ。
 同社には、必要な条件を満たせるのであれば、働く環境を変化させ、彼の状態に合わせるといった組織としての柔軟さがあった。


外部の支援機関との密な連携


 外部の支援機関である大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(愛称:エル・チャレンジ)、障害者就業・生活支援センター等と密に連携を取りながら、知的障がい者の雇用を進めている。月に1回、支援機関とケース会議を行い、仕事や生活のことについて1ヶ月の様子を報告しながら、問題があればその解決について話し合いをしているので、会社だけで悩むことはなく、とても助かっているそうだ。加齢のため、仕事を続けるのが難しく、退職せざるを得なくなった障がい者を外部の支援機関を通してサービスを利用できるようになったことも会社にとっての安心となっている。
 家族との関わりは、緊急なことを除いて外部の支援機関に間に入ってもらい、会社の意向やお願いしたいことを伝えてもらうことで、家族との良好な関係を保っていた。また、支援機関が企画する余暇活動に障がいのある社員が参加することもある。
 このように、外部の支援機関と密に連携することで、知的障がい者の理解促進、課題等についての相談、生活・余暇サポート、家族への対応がしっかりとなされており、結果的に知的障がい者の労働と生活のバランスが整えられていた。


専任支援者との信頼関係


 同社には障がい者を支援する独自の専任支援者を配置している。現場によっては障がい者約5名につき2名配置されており、障がい者の現場での指導、相談、現場のマネジメントが主な役割である。専任支援者には、まず3日間の研修を受講してもらい、障がい特性や指示の出し方を学んだり、外部の障がい者雇用現場の見学などを行う機会がある。
 佐藤氏は、専任支援者と密に連携を取り、本社が気にかけていることを伝えたり、専任支援者の声を聞き、改善提案があれば本社へ直接届けたりもしている。


「本人のセルフケア力」「現場のサポート力」「外部の支援力」の理想的な割合


 理想的な割合は正直なところわからない。個々によって割合が違ってくると思う。本人の働く意欲がないと仕事は続かない、会社も働き続けるためにどうしたらいいかを考えていかなければならない、しかし、支援機関がいないと見落とすこともあって会社だけでは難しいと考えている。