コニカミノルタウイズユー  株式会社

従業員数 173人
障がい者数合計 116人
知的障がい

113人

精神・発達障がい 11人
身体障がい 1人

※2023年2月末現在


   東京都八王子市にあるコニカミノルタウイズユー株式会社は、コニカミノルタ株式会社の特例子会社であり、全従業員173名の内116名の障がいのある方が働いている。業務内容は、主にデジタル印刷および付帯業務、データ入力・スキャン業務、機械メンテナンス、梱包・配送業務、そして、カフェ・ショップ業務、機密文書処理業務、メール仕分け業務等の会社内業務も行なっている。採用は、主に特別支援学校の実習を通して行われており、そこで個々の特性や性格、グループワークを通じたコミュニケーション能力や環境適応能力等を確認し、業務と適性をマッチングしている。

出典:「コニカミノルタウイズユー株式会社HP 会社案内」より
出典:「コニカミノルタウイズユー株式会社HP 会社案内」より

 社員は主に、メンバーと呼ばれる障がい者と、メンバーをサポートする指導員で構成されており、2013年の設立時にはメンバー8名、指導員13名であったが、2023年3月現在はメンバー116名、指導員57名と、大きく社員数を増やしている。メンバーは、入社後、より成長をしていける仕組みとして3年目までのベース研修プログラムで土台を作り、4年目の本配属以降は、コース別の研修プログラムにて、更なる能力を促進している。個々のスキルアップやキャリアアップを支援する充実したプログラムが特徴的である(左図)。また、2017年~2021年のメンバーの職場定着率が平均約99%と非常に高い。


心理的安全性の高い職場


 職場見学に行くと、各部署のメンバーが明るく出迎え、丁寧に業務内容について説明をしてくれた。「最初はお客様にメールをする際、何をどう聞いたら良いか分からず文章をまとめるのが大変でしたが、今では適切な質問ができるようになりました」や、「全てお客様の手元にお届けするものなので、ご満足いただけるようにメンバー全員で協力して、繁忙期でも丁寧な作業を心がけています」等の話から分かるように、それぞれのメンバーが責任を持って仕事に取り組む姿勢が印象的であった。また、あるメンバーは、「Wチェックシート」を使って、メンバー同士で確認し合うことで作業の抜け漏れを防ぎ、それでも不明点がある際は指導員にすぐに聞きに行くようにしていると言う。分からないことを恥ずかしいことだと思わず、周りを頼ることができる。そんな同僚や指導員との信頼のおける人間関係が構築されていた。
 別のメンバーにもインタビューを実施したところ、「締め切り前は忙しくて大変だけれど、締め切りにどうやって間に合わせるかを考え、準備しています。締め切り日に間に合うと、やりがいを感じます。そんな時は自分へのご褒美にスイーツを買って帰ります」と語り、困難を乗り越えることは大変だが、それを楽しんでいる様子が見受けられた。そのメンバーは今ではチーム4人を率いるチーフポジションになっている。新人メンバーなど、多様なメンバーに業務を教えることは難しさも感じると言うが、メンバーに教える際は、ものに例えたり、専門用語を減らしたりする等、どのようにしたら人に分かりやすく伝わるかを研究して実践しているそうだ。自分もメンバーの時に指導員から手厚くサポートをしてもらったからこそ、後輩の育成にも力が入る。そうした指導員とメンバーの信頼関係や、頼りあえる心理的安全性の高い職場環境が、スキルの高い人材の育成および、仕事の生産性向上に繋がっているのである。


何かをスタートしようとしている方たちに向けて


 インタビューの最後にメンバーからメッセージをもらった。毎日の積み重ねで乗り越えてきたからこそ、の力強いメッセージ。読む人に勇気を与えてくれる。
 「はじめて働く方、転職する方、働くことに不安を持っている方は少なからず、いると思います。新しい環境に自分から、入っていくのですから当たり前です。その新しい環境の中で働いていれば、楽しいことが増えていく一方、仕事が思っていた以上に大変だったりするかもしれません。何かの為に目的があるのが働くうえで一番長く続けられる工夫だと思います。目的といっても大きくなくても構いません。もし、自分のペースで仕事が難しかったら、周りに頼ってください。手を差し伸べ、並んで助けてくれます」。


1つ1つ成功が積み重ねられる環境づくり


 指導員にもインタビューを実施した。過去に、業務内容が複雑だったため、パニック状態になったり、失敗を恐れて完璧な作業を追求するあまり時間がかかってしまったり、そのような課題があるメンバーがいたと言う。そこで、指導員は、作業を細分化し、1つの作業を完了させるたびに「できているよ」と一声をかけるようにした。間違えてしまった場合には、失敗したということに焦点を当ててしまうことが多い。失敗というフレーズは使わずに、次に作業する場合にどのようにしたら間違えずにやりやすくなるか、ということに焦点を当てて一緒に考えるようにした。加えて、本人がメモを取ることが得意であったことに着目し、作業は細かくメモを取り、困ったらメモを見るように指導した。すると困った時はメモを見て確認することができ、格段に仕事ができるようになったと言う。1つ1つの小さな成功体験の積み重ねがメンバーの自信に繋がり、今では失敗することを恐れず、初めての仕事でも自ら挑戦できるようになったそうだ。


生活・就労の両側面からサポートする体制


 企業側は社員に向けて、入社までに身につけておいて欲しい基本スキルとして「健康管理」「生活リズム」「対人機能」の3点を挙げている。しかし、過去に対人関係が得意ではないメンバーに対して、企業側は個別にサポートをしていたが、コミュニケーションがうまく取れないことが続き、サポートの量も増え、指導員のストレスも大きくなる一方であった。指導員を変えて欲しいという本人の希望も必要に応じて対応していたが、それでも問題は繰り返してしまう。問題の原因を探ってみたところ、家庭内で認められていない、という不満が募ることで、会社での対人関係に支障が出ていることが分かった。この状態を改善すべく、家庭でのことは支援センターがサポート、会社でのことは企業側がサポートするという役割を明確にし、両側面から支援する体制を整えた。
 生活面・就労面の両バランスが個人のパフォーマンス向上に繋がると考え、コニカミノルタウイズユーでは、どのようにしたら「仕事を遂行すること」と「個別性を尊重すること」に折り合いが付けられるかを常に考えている。


メンバーと指導員の相乗的なスキルアップ


 メンバーは入社3年間のうちに、ローテーションによって複数の部署を経験する。そして、5者面談(本人、家族、支援センター、卒業校、会社)を実施しながら、本人の希望や強み、苦手なことを「ソーシャル&ジョブスキルシート」に記載していく。そうして、社会人としての土台となる「柔軟性の向上」「対応力の強化」「新たな適性の発見」を身につけ、適性を踏まえた上で4年目以降の配属部署選定が可能となる。配属後に関しても、3年に1回を目安にコースの希望について確認があり、柔軟なコース変更の機会も用意されている。本人の特性が最大限に活かせる業務を見極め、コースと個人の特性との良好なマッチングができる充実したプログラムが構築されている。配属後、作業確実性や信頼性、高い専門性、柔軟な対応能力などの指導育成者側の能力が確認されたメンバーにはチーフ任用制度により「チーフバッジ」が与えられ、昇給や賞与にも実績に応じ反映される。
そのような制度も念頭に置きながら、指導員は担当メンバーの入社から5年間の成長計画を描き、「長期個別育成計画シート」を作成する。このシートは当初、メンバーのキャリアアップを目的に作られていたが、社長・人事・指導員で対話を重ねていく中で、「メンバーによってはキャリアアップではなく、現状を維持し続けることで個人のパフォーマンスが発揮される人もいる」という現場からの意見があり、内容を改善した。
 「5年後のキャリアアップ」という視点だけではなく、「5年後このメンバーにはどんな風に働いていてほしいか」という視点も取り入れてシートを作成していくことを、経営層と現場側の双方で合意したと言う。シートが導入された当初は、キャリアアップという基軸に対して葛藤を抱えている指導員もいたが、メンバーが成長すること・継続して仕事を続けられることで、個々の努力が適切に会社に認められ、それが指導員のやりがいにもつながっているそうだ。長期的な視点で考えることの意義を確認できたからこそ、シートを作成する意義を感じている。
 そして、シートに書いた計画を実行するため、日常的にメンバーをサポートすることが、指導員自身のスキルアップにも繋がっている。支援力の向上のための指導員研修制度や、指導員同士の交流会等の場も充実している。メンバーと指導員が相乗的にスキルアップする仕組みがここにはあり、それが同社の最大の強みの1つとなっている。