あまり実感することはないかもしれませんが、職場には本当にさまざまな人がいます。障がいのある人、経験の浅い人、専門性の高い人、価値観が大きく異なる人。多様性という言葉は前向きに語られますし、実際におもしろく豊かなことであり、上手く活かせればイノベーションも生まれるといわれています。しかし、実際に仕事の現場にいると分かるように、毎日の仕事の中では、多様であるほど、ズレや誤解、行き違いは生まれます。
さらに、仕事は、「成果」や「結果」を求められるのと同時に、他者から「評価される」ものです。ですから、仕事をする場で「求められるもの」が異なった場合、ズレや誤解、行き違いは日常の生活以上に厳しく判断され、評価を下されることになるのです。これらが仕事をする上で、多様なチームの「分かり合えなさ」をより強め、仕事の成果を出しにくくしています。
そうであれば、「多様なチームでの『分かり合えなさ』は、当たり前に起こっている」ところからスタート(宇田川2019)してみてはどうでしょうか?「最初から分かり合うことは難しい。どうすればよいのか?」という前提でチームをつくる。そういった多様なチームで一緒に働くための第一歩は、「相手のことをよく知ってみる」ことだと思います。「相手のことをまずは知る」コ・クリエイティブ
ダイアローグ(以下、「コクリ対話」とする)はここから始まります。
多様なチームには、まず「分かり合えなさ」が存在します。そして、「多様さを活かし合う」理想の状態になるまで、チームは自然には機能しません。多様さを活かし合うためには、まずビジョン(向かうところ)をチーム全員が認識していることが必要です。
そして、もう一つ大切なことがあります。職場での多様さを活かすためには、「仕組みの設計」がセットであると考えています。つまり、良いチームは偶然できるものではありません。個々の人が「求められた仕事を遂行」でき、チームとして「成果を出せる状態」は、意図的につくっていくものです。そういう意味で、「設計していく」という挑戦が最初から生じます。個々の違いがあることを前提に、どう機能させるか。どう調整するか。その問いから、奥深いマネジメントは始まります。
コクリ対話とは、仕事の成果につなげるために、一人ひとりを理解しながら、誰もが働きやすい環境をつくる協働的・創造的な対話のプロセスです。それは、単なる情報や意見の交換だけではありません。
例えば、「なぜ報告が遅れたのか」という問いを、個人の「注意不足」や「意欲の問題」で終わらせないことです。その人はどのような判断基準で優先順位を決めていたのか。何を「仕事の成果」だと理解していたのか。そこにある「主観フィルター(p.19)」を知ろうとするところから始まります。
スタッフは「完璧に仕上げてから出すこと」が責任だと考えていたかもしれません。一方で上司は「途中でもよいから早く共有すること」が成果につながると考えていました。このズレを責め合うのではなく、言語化し、今のチームにとって成果が出るようにするために、何が最適かを一緒に考え、できるようにしていく。その過程こそがコクリ対話です。
仕事をしていると、個人の努力だけでは限界が見える場合もあります。
例えば、会議の進行が早すぎて発言できない人がいるなら、「もっと発言してください」と言うだけでは解決しません。議事を事前共有する、発言順を決める、チャットで意見を書けるようにする、といった仕組みの変更を行うことで対応できることも多々あります。個人を変えるのではなく、まずは仕組みを設計して組織やチームにある構造を一緒に変える。これもコクリ対話の一部です。
本人とチーム(組織)が向き合い、その時点での最適解を共につくり、試行錯誤しながら進む。それは予定調和ではなく、小さな実験を重ねる「冒険の旅」です。その一連のプロセスが、個人とチームの経験学習を豊かにし、それを続けていると、やがて相互理解の文化になっていきます。コクリ対話とは、相手の可能性に着目し、仕事へ主体的に関われるようにしながら、成果を生む構造へとつなげていく実践です。個々の感情や状況に寄り添うことはとても大切ですが、そこで終わらせず、仕組みで支える。そのバランスを取り続けることが、コクリ対話では重要になります。
仕事をする上での良いチームとは、単に仲が良い集団ではありません。「個々がこのチームの一員と感じられていること」そして、「求められた仕事を一人ひとりができること・チームとして成果を出せること」が同時に成り立っている状態を、私たちは良いチームと考えています。
ここで言う「仕事ができる」とは、単に作業が速い、スキルが高いということではありません。我が国の仕事の特徴として、特定の組織的・制度的・社会的文脈の中で、暗黙のルールや期待を読み取って動き、成果を出すこと、そして、周囲との関係を維持し、組織や社会に価値を生み出すことが求められます。つまり、「成果を出すこと」と、「関係を維持すること」を同時に求められる仕事文化であるといえます。これが、障がいのある人が働く上で非常に大きなハードルとなることが度々みられます。
例えば、資料作成が非常に上手な人がいるとします。しかし、その資料がチームの目的とずれていたり、共有されずに自己完結していたりすれば、組織的価値にはつながらないとされます。逆に、完璧ではなくても、チームの目標を理解し、周囲とすり合わせながら改善を重ねていく人は、成果と関係の両方を育てています。これが「仕事ができる」状態と考えられていることが多くあります。
障がいのある人が、特定の工程では非常に高い集中力を発揮できるとします。その力を適切に配置し、周囲が理解し、求められる役割が明確であれば、チーム全体の成果に貢献できます。しかし、その成果を出すまでに整えないといけない期待値や評価基準が曖昧なままでは、その人が持っている力をどこに注げばよいか分からないため、その力は発揮されません。
つまり、「仕事ができる」とは、個人の能力だけで決まるものではなく、文脈の理解・役割の理解・成果の理解・関係形成などがバランスよく行われている状態といえます。そしてそのバランスを整えるのが、対話と仕組みなのです。
私たちは、人は本来、「その人のもつ力を発揮したいと思う存在」だと信じています。しかし、その力が発揮されるかどうかは、個人の力だけでは決まりません。役割が明確であるか、期待値が共有されているか、挑戦したいと思える環境が整っているか。そういった組織の仕組み(構造)が整ってはじめて、「仕事ができる」は実現します。だからこそ、良いチームは偶然には生まれません。仕組みを設計し、それを調整し続ける中で生まれ、お互いに学び合いながら育てていくのです。
令和7年度
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