ウイングアーク1st株式会社は、企業のデータ活用と請求書などのデジタル化で業務を活性化させるソフトウェアを提供している会社である。「働く人が働き甲斐をもって、社会と繋がり継続的に働ける職場をつくる」、「会社全体が取組みに共感し誇れる職場をつくる」、「ウイングアーク1stのサステナビリティ戦略と合致し企業価値の向上に寄与する」といった理念のもと、障がい者雇用に取り組んでいる。具体的に、「障がいがあっても幸せに働ける雇用環境」を目指して、自分たちの手で新しい雇用の仕組みを作ることを決意し、約2年前から沖縄に拠点とした農業を行うことで地域に根ざした活動を行っている。
現在、沖縄オフィスでは、IoTなど先端技術を活用したスマート農業にも取り組み、様々な障がいのある10名が農作業に従事している。自然栽培の野菜やバニラの栽培、琉球ガネブという沖縄の在来種のぶどうにも挑戦している。自然栽培の野菜やバニラは丁寧な手仕事や手間ひまをかけるからこそ、付加価値がつけられる。そうした栽培の一つひとつのストーリーを大切に農業を行っている。現場の責任者である今田氏から、社員が就労を継続していくために大切にしていることについてお話をうかがった。
今田氏は、「会社の中でどう働くかということはもちろん大事だが、社員たちの生活と就労状況の両輪で考えたい」と言う。
「(仕事の話だけだと)うまく行かないなっていうのは、前々から思っていて。だから1on1は定期的に隔月で計画している」、その中で、「生活のこと、仕事のこと、何でも話したいと思うことを話していいですよ」と伝えているとのこと。最初は、「プライベートのことを会社の人に話していいのだろうか」といった様子で、話しづらそうにしていた社員も、次第に「お金のことで困っている」、「実はあまり夜眠れていなくて」といった相談をするようになったそうだ。相談内容によっては、障害者就業・生活支援センターや就労定着支援事業所など他機関にも支援を依頼し、頻繁に連絡を取り合いながら、「みんなで一緒に考える」というスタンスを取っているとのこと。また、1on1をしていても、会社の人には直接言いづらいこともあるので、本人が相談しやすい人(外部の支援者など)に話してから、会社にフィードバックしてもらうこともあると言う。
今田氏は、「会社だけでなく、社員を支える場が地域に複数あることは、彼らが仕事を続ける上で大事なことだと思う」、「社員のワークライフバランスを含めたサポートを大切にしたい」と語ってくれた。
1on1の中で一番多い相談は、「職場内での人間関係がうまくいかない」というもの。本人の気持ちを大切にしながら、時に作業場を離したりするなどの対応をしているが、やはり一つのチームでやらなければいけないこともある。不満や不安を感じている社員には、「(その人と一緒に仕事をすると)どういう気持ちだったのか」といったことを丁寧に聞きつつ、今田氏は、「何か僕にできることある?」と問いかけるそうだ。
「安易に解決策を提示するのではなくて、本人の気持ちを聞きながら、本人の中での気づきを増やしていけたら」という今田氏。まずは本人の気持ちを受け止めることで、本人が「なんでそんなに嫌だったんだろうな」、「なんでそんなに怒ったんだろうな」と考え、対応策を自分で導いたり、成長に繋げていけるようにしたいとのこと。
このように、今田氏は社員と丁寧に「対話」をし、「折り合いをつけていくプロセス」を大切にしていることがわかる。とは言え、困ったことが起こるのは避けられないとのこと。その時に大切なのが、「自分たちが取り組んだ作業の結果が、誰の笑顔を作っているのか」という視点、そして「会社の理念」の共有だと話してくれた。
具体的には、仕事を通しての学びがあり、3ヶ月、6ヶ月、あるいは1年たった時に、1年前の自分とどう変わっているか、しっかりフィードバックできることを目指している。そのためには、時々、売り場に一緒に行き、店の人と交流をしたり、自分達の野菜がお客様にどのように届いているのか、実際に見てらうことを行っているそうだ。
加えて、社員全体が大事にしているのが「Build the
Trust」というコアバリュー。相手の期待を超える結果を出し、信頼を得るという意味がある。これについて今田氏は、「社員一人ひとりが挑戦を楽しみ、商品や私たちの取り組みの価値向上を目指せるチームになりたい」と話してくれた。そしてその背景には、「私たちの作業の向こう側にあるお客様の笑顔に、自信とプライドを持ってもらえると、うちの会社で働いて良かったという感想につながるのでは」という思いがある。
今田氏は、「単に労働するというよりは、一緒に成長できるようなチームになっていくことを目指したい」と言う。そのためには、内的な「気づき」や「動機付け」が重要であり、1on1の時間も確保しながら、「社員が自分自身の成長点をしっかり自分で認識していけるような仕組みを作りたい」と考えているとのこと。さらに、「自分たちが新しい価値を作れるようになるためには、個々の意見をしっかり吸い上げて一緒に考えていきたい」と力強く語ってくれた。
さらに、沖縄オフィスの活動を全社員に共有することも大切にしている。12月のモーニングセッション(各部署が持ち回りで制作する約30分の社内番組)では、自撮り棒にスマホをつけて、野菜をつくっている畑や栽培しているバニラの圃場の様子を届けたところ、「一緒に作業したい」との声が多数あったとのこと。インクルーシブな会社を目指して、今後は全社と沖縄オフィスの活動がしっかりと一体となるようなシステム構築にも力を入れていくそうだ。
執筆:東洋大学福祉社会開発研究センター 門下祐子
令和4 年度
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