同社では、一般廃棄物処理施設の運転・管理の委託業務を25年間担っている。また、現在ではごみ処理選別業務やペットボトル・トレイ選別処理業務、可燃性ごみ運搬処理業務と全般を受託しており、廃棄物業界でも全国トップレベルの実績を誇る。社員37名のうち、32名が障がいのある方だ。(2022年2月現在)。生活には必要不可欠な仕事だが、一部の仕事を除いて、直接お客様の感謝の声や笑顔を見ることが出来る仕事ではない。しかし、同社の社員は1人1人が自分の役割を自覚し、また日々自己成長を目指し業務にあたっている。なぜ個々がこれだけの働きがいを持って業務を遂行しているのか。その謎は那波氏と話すうち解き明かされていった。
一番に大切にしていることは、相手に信用してもらうということだ。「この人は自分の話にちゃんと耳を傾けてくれる、知ろうとしてくれている。この人は自分のことをちゃんと理解してくれている」と相手に感じてもらうことで、本人の中に相手の言葉や思いを受け入れる『余白』が生まれるという。この余白が生まれることで、本人が自分を客観的に見る余裕が生まれ、自分のより高いレベルで会社や社会に貢献したいという思いが芽生えてくると那波氏は話す。信用されているかどうかは雰囲気や表情や仕草、言葉のイントネーションで見えてくるそうだ。実際にやりとりを重ねることが大切で、その中で相手の良いも悪いも感じることが出来る。まさに「対話」をしているのだ。中には業務後に2時間の相談をした社員もいるそうだ。そういう時は一緒にお弁当を食べながら話をするのだと那波氏は笑顔を見せた。
このような関係性は、ビジネスにおいては甘えにつながってしまうのではないかとの問いに那波氏は、まずは本人の要望を聴くことが大切だと話す。ただ、相手の話に耳を傾けすぎてはこちら側の要望を何も言えなくなってしまうケースもあり、その部分に関しては工夫が必要であると。…その工夫とはなんなのか?
那波氏は、他に課題があったとしても本人から出た課題をまず一緒にやってみるのだという。そしてその課題を本人が出来たら評価する。この時に挙がってきた相手の要望が完全に間違っていてもそれを全否定してしまっては今後プラスの方向に持っていくことが難しくなってしまうため、まずは一旦受け入れるのだという。次の要望が本人から出てきた時には、その要望は聞き取りつつ、本来の課題も提案してみる。「本人から出た課題を解決するためには、先にこちらの課題に取り組んだ方が良くないですか?」と。すると本人からも「そうですね、やってみます!」と自主的に取り組もうとする発言が返ってくるという。本人の納得に繋がった上で行う業務の質は成果の高いものになる。一方が求めるものをただ押し付けるわけではなく、双方で一緒に作り上げていく感覚を共有することが納得につながるのだと考える。
業務の配属先を決めるときは、障がいの種類は考えないと那波氏は話す。個人個人で仕事の力量や仕事との相性が異なるため、実態では障がい特性だけを知ることは意味がないのだという。同社では3ヶ月の研修期間を設け、その期間にさまざまな部署を経験し、本人に合った部署に配置する。
業務を教える際は単に作業やルールを教えるだけではなく、この作業にはどのような意味があるのか、それを怠るとどうなるのかまで伝える。背景をしっかり説明することで業務の本質を理解してもらえるのだという。例えばプラスチック製品について、カットされているペットボトルが回収されてきた際は、工作などに使われ油や不純物が入っている可能性があるため必ず廃棄する、といったことである。ここで破棄しなければ、他の機械に入った時に不具合が生じ、全ての機械を止めなければならなくなるからだ。
物事にはルールがあり、そのルールには意味がある。その意味を理解して仕事をするということは大切なことだと那波氏は話す。何に対して役に立つのか、どういう効果があるのかをしっかり伝えることで業務が単純作業ではなくなり、本人のモチベーションや仕事の効率も上がるだという。正しい責任感を持ってもらうことが大切であるという那波氏の言葉が印象的だった。
障がい者雇用のノウハウが揃っていても、それを実行する人の考え方や姿勢によって成果は全く異なると那波氏は話す。うまくいかないことに対して障がい者側の問題だと片付けてしまわれがちだが、実は受け入れ側の問題であることに焦点が向かない。もともと組織にあった課題が、障がい者が働くことでもっと顕著になるということに気づいてないのである。雇用し、法定雇用率の達成だけしか考えていない人はノウハウだけを知ろうとするのだそうだ。相手を知り、相手に知ってもらう工程を重ねることで信用が生まれ、仕事への成果にも結びつく。同社で働く社員には、常に新しい挑戦をしてもらっているのだという。最初は見学対応が出来なかった社員も、少しずつ段階を踏むことで今ではスムーズに対応することが出来ている。最初は新しいことへの挑戦に緊張が見えるが、次第に挑戦を楽しめるようになるのだという。一歩進んだ先の成長した自分を感じられることは自信にも繋がる。訪問するたびに進化し続ける同社から今後も目が離せない。
自分自身がなんとなく苦手だと感じているのが、耳から情報を処理すること、協調性をもつことで。入社1~2年目の時は、自分にはない他社員の価値観に驚く日々でした。言動や考えを理解することが難しく、パンクしそうになることもあり、納得がいかないことを片端から跳ね除けられたらラクだとも思ったことがあります。しかしそれでは会社としてうまく回らない。年数を重ね、那波さんと話す場を重ねていったことで、世の中には自分には予想もできないような事があること、その人それぞれにバックグラウンドがあり価値観が作られていることを理解できるようになりました。納得がいかないことがあっても、とりあえず落ち着いて視野を広げる努力をするようになりましたね。
面談や面接などの発表の場になると緊張してしまって。新しい作業へ一歩を踏み出すのが苦手だなと自分では感じているんです。でも一歩踏み出せるようになったのは、最初は失敗しても経験を積んだら出来るようになっていくということがわかってき始めたからだと思います。嫌だなと思っても、これを乗り越えたら何かプラスになることがあるはずだと思い、仕事をやり遂げています。どんな個性のある人でも何かしらの役割があって、作業することができる環境であるというのがこの会社の良いところだと感じています。
令和4 年度
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対話によるD&I を目指す障がい者雇用研修・ネットワーク構築事業
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