障がいのある人が戦力として活躍し、成長できる職場とはどのような場所だろう。福岡にある就労継続支援A型事業所ComeLuck.Lab(カムラックラボ)はそのモデルを提示している。
高度経済成長期、福祉は働きにくい人の居場所としての役割を担ってきた。しかし時代は変わり、多様な人材が戦力となることが求められる。カムラックの賀村社長は「福祉が障がいのある人の社会進出を妨げてはならない。自分たちがロールモデルをつくりたい」と考えた。実現には足りないピースがあった。フロントとなるIT開発会社だ。賀村社長の想いに共鳴した高森社長が株式会社else
ifを立ち上げたことで、“仕事の中で人が育つA型事業所”のモデルが形になっていった。
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ifが受注した仕事の一部をカムラックが担い、メンバーは実際のプロジェクトの中でスキルを磨く。そんなカムラックでは「合理的配慮」という言葉をあえてあまり使っていない。ここでは『クライアントから依頼された仕事を納品する』という共通の目的に皆の意識が向いているからだ。仕事ができるための各々の方法を選ぶことは特別なことではない。実態として、個々に合った働き方が生まれている。
WEB制作、動画制作、システム開発、アプリ開発、デザイン、テスター業務、事務代行…。多岐にわたる業種の仕事を受注するカムラックには、メンバーの関心やスキルと合致する仕事が集まる。「カムラックさんと一緒に仕事をしたい」。そんなクライアントからの依頼で、自社売上のみで運営が成り立っている。
「官公庁のホームページを作っている」「登録者100万人を超える有名YouTuberの動画作成のお手伝いをしている」。メンバーと家族の会話が生まれるような仕事を、意図的に獲得している。「人に話したくなる仕事っていいじゃないですか」。賀村社長の戦略の1つだ。
ここで働く永田さんに仕事内容を教えてもらった。
「3つの業務を掛け持ちしています。登録者100万人規模のYouTuberチャンネルの運営のサポート、金融系のデータ入力、顧客データの処理です」。
いわゆる並行するプロジェクトを掛け持つ働き方。永田さんには精神障がいがある。一見、負担があるように思えるがどうだろう。
「いま、無理せずちょうどよい業務の回し方をつかめそうな感覚なんです。以前は月に1回くらい不調で欠勤がありました。でも今年は気づいたら休んでいない。朝起きて『行かなきゃ』ではなく自然と『今日も行こう』と思えるんです」。
永田さんがカムラックを知ったきっかけは、ファンである九州発のアイドルグループ「LINQ」だった。そのマネジメント企業とカムラックが業務提携していたのだ。賀村社長は地方アイドルにも同じ課題を見たという。「可能性のある人材が、本業で稼げていない」。その構造を変えるという発想は、当初から一貫している。
永田さんには企業で働いた経験がある。そこで任されていたのは最低賃金の単純業務だった。キャリアアップを願ったが、いまの仕組みでは難しい。「障がいのある人のための仕事」。そんなミスマッチの中で体調も気持ちも追いつかなくなった。
一度、土台を立て直そう。そう考えた永田さんの「戦略的撤退先」がカムラックだった。
前職の経験を経た永田さんの願いは、自分の力で経済的自立を果たすことだ。
「今思えば、最低賃金相当の仕事内容で昇給してほしいというのは自分でもおかしいなと。障がい者だからではなく、自分と仕事の価値を高めて、評価してくれる会社で働きたい。そう腹をくくりました」。
心を決められたのは、永田さんにとってカムラックが「安定」と「挑戦」を両立させられる場所だからだ。「トップアスリートのように自分を追い込む働き方は私たちには合わない。体調と相談しながら微調整しています」。体調の相談は福祉スタッフに。仕事の相談は仕事スタッフに。相談したいタイミングで、顔を見て、伝えられる。永田さんの「安定」に重要な環境のひとつだ。
どんな環境なら「安定」しやすいか。この気づきは経験から生まれた。一時期、永田さんはチャット対応をメインとする業務チームを希望したことがある。テキストコミュニケーションが合うタイプの人もいる。しかし“自分は違う”とやってみて気づいた。相談すると、すぐに配置変更が決まった。合わない場合、立ち止まって調整できることを実感しているから、「挑戦」もできる。
余裕ができたら次の挑戦も考えている。プログラミング言語の習得だ。「Aさんも同じ言語を学んで、この仕事につながりました。永田さんにも合うと思いますよ」。仕事スタッフの言葉は、新しい可能性を見せてくれた。
挑戦のタイミングを選べる。隣には具体的なロールモデルがいる。else ifとカムラック、この仕事と場所の「設計」がメンバーの人生の選択を自然に支えている。ここではメンバーは“支援される人”ではない。“仕事の中で育っていく人”だ。
賀村社長はカムラックとelse ifのこの先を、福岡の名物である明太子に例えた。創業者が独占するのではなく、レシピを同業者に広めたことで地域の名産になった明太子。同じようにカムラックとelse ifの共生の仕組みを各地域に提供し、共生モデルが生まれることを願って動いているそうだ。
カムラックは2026年2月に13周年を迎えた。二人の創業者が描いたビジョンはすでに多くの賛同者を集めている。次の10年、このプラットホームからどんな働き方が生まれていくのだろうか。
(高橋亜矢子)
令和7年度
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