沖縄県中頭郡北中城村にある就労継続支援B型事業所TEAM
VILLAGEは、精神障がい、発達障がい、高次脳機能障がいなど、多様な障がい特性をもつ利用者が、農作業や創作活動を中心とした就労を行っている。特に、特許技術を取得した沖縄産バニラの栽培では、障がい者の強みを活かし、最高品質を実現。プロのパティシエからも高い評価を得ており、近隣施設も含めた地域のB型事業所の工賃向上の可能性を開いている。
理念は「ともに楽しみ、ともに成長し、ともに新しい未来をつくる」。お話を伺ったサービス管理責任者の仲本氏は、支援者と利用者を同じ場で時間を重ねる仲間として関わることを重視している。成果や課題解決を急ぐより先に、安心して言葉を交わせる関係・環境を整える。それによって育まれる信頼関係が、後の対話の深さを決めていく。
TEAM VILLAGEでは相談担当を固定せず、日常の接点を重ねながら利用者の状態を見立てていく。面談は必要に応じて仲本氏を中心に行うが、形式的な場だけに頼らない。作業の合間の短いやりとり、休憩時の雑談、活動の振り返りといった何気ない日常の会話や表情から変化を読み取り、「今後どうしたいか、どうあるべきか」をともに考えるために対話を行う。
例えば、創作活動を続ける利用者が、自身の活動の意味に迷いを抱えていた事例がある。表面上はとても楽しそうに創作を行っていて、相談員とのモニタリングでも「とっても楽しい、大丈夫」というが、販売機会が限られ成果が見えにくい状況のなかで、不安が静かに蓄積していった。そうした利用者の迷いは、改まった面談で質問されて初めて出てくるというより、日常の関係性の中で自然に言葉になることが多い。そこから仲本氏は、外部から寄せられた作品への評価や、現在の取り組みの意義や今後の展開を具体的に説明しながら、「これでいい」と対話を重ねた。本人は自分の活動を別の角度から捉え直し、次の一歩を考えられる状態へ近づいたという。
主張がはっきりしている方や目立つ方との関わりがどうしても多くなり、大人しくスムーズに働いている利用者にはつい安心してしまいがちだが、なるべく全員に一日一声はかけたいと仲本氏は言う。面談では決して表に出てこない静かな思いが、日常会話のなかからポロリとこぼれてくる。対話は、特別な場面で成立するのではない。日常の関わりのなかで信頼が育ち、その延長線上に生まれていく。
一方で支援は迷いの連続でもある。特に合理的配慮においては、「どこまで配慮すべきか、正解はまだ見つかっていない」と、仲本氏は本音を教えてくれた。それは単に、「配慮と甘やかしの境界」への問いというよりも、例えば、高次脳機能障害があり説明を何度も必要とする利用者がいたとしても、猛暑のなかの畑作業では全員の安全管理の優先順位が高まるため、1人の利用者に重点的な配慮をするのが難しいといったような、個と全体(チーム)への支援の力点をどう置くかが難しくなるという迷い・葛藤だ。
職員間で意見が分かれることもあるが、仲本氏は迷いを個人の責任として抱え込まず、会議で共有し、状況を分解しながら考え、できること・難しいことを言語化しながら調整している。「スタッフも安心してストレスを抱えずに働ける環境じゃないと、みんなにとってメリットがない」という仲本氏は、畑という現場に出ることが少ないからこそ、必要に応じて他の事業所や外部機関にも相談しながら、個/全体への配慮のバランスを考え、現場の制約の中で「現実的にやれる最善」を探る。
利用者との関係でも、正誤の判断を急がない対話が求められる場面がある。妄想的な訴えや強い不信感を表出し続けていた利用者に対しては、否定して正すのではなく、まずはとにかく「聴く」こと、そして不安の背景を丁寧にたどっていった。例えばその利用者が、他者からされたことに不満があって「裁判を起こす!」と訴えたとき、まずはなぜそう思ったのかを聴いた上で、裁判を起こすには費用が必要なこと、心への負担も大きいことを説明し、「そうなったらものすごく心配だよ」と伝えながら、行動の影響をシミュレーションすることを繰り返した。否定されない経験が積み重なることで、本人が「まず相談する」ようになり、「訴える!」と言うことはほとんどなくなったという。変化は一回の説得では生まれない。何度も聴くことを徹底し、対話を続けていくことで得られた信頼関係である。
仲本氏との話のなかで最も印象的だったのは、「頭の中がいっぱいで整理できない」と訴えた利用者への支援である。「ものを移動させる」といった単純な作業依頼に対しても「あれもこれもやらなきゃいけないから無理です」と言い続けたその利用者は、その作業をする力がないのではなく、頭の中の整理ができておらず行動の優先順位をつけられないモヤモヤ状態にあるのでは、と仲本氏は考えた。
「モヤモヤ」はネガティブでなく「モヤモヤを整理・共有することで新たな気づきへとつながる」というコクリ対話(Co-creative
Dialogue)ツールの考え方からヒントを得たようだ。そして、脳内を表すエンターテイメント・ウェブサービス「脳内メーカー」を参考に、その利用者に、脳内を埋めつくしているものを毎日書き出してもらった。その結果、その利用者の頭の中には、「ペンをここに戻す」といった日常の細かな行為も含め、やらなければならない項目が未整理のまま20近くに及ぶことが確認できたという。
対話をしながら一緒に不要な項目を点検し、優先順位を整理する作業を繰り返すことで、最初は仲本氏が整理の方向性を示していたものの、次第に本人が自分自身で調整できるようになり、最初は2時間近くかかっていたモヤモヤの整理が、次第に5分くらいでできるようになった。言葉にできないモヤモヤを対話のなかから可視化し、整理し、頭の中の余白を作ることを癖づけることによって、その後、再び混乱することはあっても、整理できたという自身の成功経験が安心につながり、依頼した作業もこなせるようになったという。
このプロセスは、思考を構造化し、自分で整理する力を高める共同作業である。自分で整理する力が高まることで、作業の安定性や質も向上する。対話は個人の安心を育むだけでなく、仕事の遂行力を高める基盤にもなっている。
「コクリ対話」からヒントを得て、頭のなかのモヤモヤを整理。
続けるうちに当初2時間かかっていた整理が5分で終わるように。
出典:脳内メーカー(https://maker.usoko.net/nounai/)より画像引用し作成。
こうしたそれぞれの障がい特性に合わせた日常的な対話から生まれた実践を、きちんと売上につなげることが重要だと仲本氏は語る。「B型事業所はこれくらいしか稼げないというイメージを超えて、ちゃんと自分の好きなものを買える。それが人間らしい生活なんです」という仲本氏が現在構想しているのは、利用者とともに行う「ビジネス会議」だ。売上目標や市場の需要・トレンドを共有し、そこに自分がやりたいこと・表現したいことをどう重ね合わせていくか、いけるのかについてみんなで対話し、考える場をつくろうとしている。
対話によって自分たちの特性や強みが明確になり、それをどう商品価値に転換するかをともに検討する。その積み重ねが商品の魅力をさらに高めていく。そして、それが成立するのは、日常において形成された信頼関係があるからこそだろう。
対話は安心を育むものというだけでなく、売上の向上にもつながりうるものであり、それがつまり「人間らしい生活」を実現させていく。仲本氏の柔らかな語りからは、そんな強い意思が感じられた。
(佐藤生実)
令和7年度
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