一般社団法人暮らしランプ


 同法人は、就労継続支援B型、生活介護、放課後等デイサービス、相談支援、居住支援(グループホーム等)など多岐に渡る分野を展開する地域密着型の福祉法人である。カフェ・焙煎所・アトリエ・私設公民館など、人と関わる「場」を持ち「仕事」をつくることで、地域の中の日常と福祉が交わる拠点づくりを行っている。
 また、障がいの有無に関わらず、一人ひとりのリズムや役割を尊重し、「暮らし」や「働くこと」、「集うこと」が途切れることなく機能する仕組みを構築しており、利用者・職員ともに生き生きと働く姿がそこにある。事業開始10年弱で組織を強く、そして大きく展開できた背景は何か。森口氏との対話の中からそのヒントをいただくことが出来た。


心に触れ、環境を調整する-コミュニケーションの「壁」を「扉」に変える-


 障がいのある方(メンバー)とのコミュニケーションで大事なことは「管理」ではなく「調整」だと語る森口氏。「相手を変えようとするのではなく、その人が力を出せるよう関係や環境を整えること」が支援者の役割だという。困ったことや感情の揺れがあっても、その部分をすぐ解決しようとはせず、まずは今の状態を受け止めることが大事である。例えば、お母さんの愚痴を言っているけど、本当はお母さんがすごく大好きっていう部分が引っ張り合っているような気がする時は、「今日嫌いでも明日好きになっているんじゃない?明日は仲良くなっていたらいいけど、今日はしんどいよね。」など、表に出ている怒りや不満だけを扱うのではなく、その奥にある気持ちや背景を想像しながら関わる姿勢を重視しているとのこと。
 また、言葉だけで変えようとするのではなく、役割の持ち方や作業内容、関わる人との距離など環境そのものを調整することもコミュニケーションの一部と捉えている。メンバーたちは「仕事」をしに来ているという意識をもっているので、作業を与えられる存在ではなく仕事をしに来ている主体者として、社会からの評価やご自身の役割を実感を通して自信が育つよう考えている。


「待つ」ゆとりと「発信」がもたらすチカラ


 森口氏曰く、スタッフとのミーティングにあらたまった場を設けることはあまりしていないとのこと。基本的には各事業所を回りながら「ウロウロしている」感覚で現場にいて、必要があればスタッフの方から話しかけてくるし、特に必要がなければこちらから「元気?」と声をかける程度だという。
 問題が起きた時もすぐに答えを示すのではなく、「どう思う?」「なんでだと思う?」と問い返し、現場で関わっている人が自分で考えられるようにする「待つ」姿勢が大事だと語る。その理由としては直接的にこちらが答えを出すと、スタッフが考えなくても物事が動いてしまうからだという。また、個人的な関係の中での発言が組織の意思として広まらないよう、週報動画を配信し、経営層が考えていることや大事なことはそこから全体へ共有する仕組みにしている。
 さらに経営層との対談やトークイベントを録画し、経営層が何を考えているかを配信している。また、その中では、無記名の質問などを事前に集めて、それに経営層が答えていくというトークイベントなども行っているという。しかし、一番大切なのは常に現場にいて、必要な時に関係を整えられる距離にいることであり、社内コミュニケーションは日常の関わりの積み重ねとしてつくられるものだと森口氏は語る。


法人内でのスタッフがチームになっていくこと。その意味


 法人内でスタッフがチームになっていくことは、「単に役割を分担して効率よく働くことではなく、互いの違いや強みを持ったまま一緒に動ける関係をつくること」だと語る。最初から組織をまとめようとするのではなく、日々の関わりや経験を重ねる中で「まとまっていくといいよね」という感覚が自然に生まれていくことを大切にしている。また、考え方が違うこと自体は問題ではなく、「あの人はそう思うんだね」と受け止めながら、最終的にチームとして何を選ぶかを話し切ることが重視される。
 失敗があった場合でも、そのこと自体を責めるのではなく、失敗したことで本人はすでに責任を感じているので、次の改善や切り替えに焦点をあてて、成長を促すことを意識しながら、スタッフの年齢や経験値などに合わせ、声掛けの方法を「調整」しているそう。例えば、年配スタッフには「すみません。(こちらの)伝え方が悪かったですかね。」と敬意を持って丁寧に伝えるようにする一方で、経験の浅い若手スタッフには「こういう事もあるよね。あと50回位同じ事あるんじゃない?」などと、ユーモアを交えながらも、「でも6回目くらいで良くなったらいいんじゃない?」と長く気持ちを引きずらせずに、次に意識を集中出来るような声掛けを行い、画一的ではない関わりを徹底して行っているとのことだ。
 また、「対立が起きた場合でも途中で止めず、答えが出るまで向き合うことが仕事としての責任」とされている。さらに、「チームは固定された形ではなく、それぞれの個性や得意が活きるタイミングを見ながら役割が変わっていくもの」と捉えている。
 誰か一人がチームを引っ張るのではなく、互いを理解し、助け合い、必要な時に支え合える関係が積み重なることで、結果としてチームが形づくられていく。その過程そのものが、法人の成長であり、共に働く仲間としてチーム化していくと考えているのだ。


これからの「はたらく」-ソーシャル・ファームを目指して-


 森口氏は、福祉という枠のままではメンバーとスタッフの関係性が、どうしても立場で固定されてしまうと感じており、支援する側と支援される側という構造のままでは、本当の意味で対等な関係になりにくい。対話は本来、同じ場で同じ仕事をしながら、お互いを一人の人として関わる中で深まっていくものだと考えている。そのため、障がいのある人もない人も同じ職場で働き、価値を生み出し、社会から評価される環境が必要になる。それがソーシャル・ファームという形に繋がると考えているそうだ。
 また、対話は理解し合うだけで終わるものではなく、実際の仕事や成果につながってこそ意味があるとも捉えている。心理的安全性があるだけではなく、役割や責任を共有しながら一緒に働くことで、本当の意味での関係が育つ。福祉制度の中にとどまらず、社会の中で働くことを通して現実のものにしていきたい。そのためにソーシャル・ファームなど、新しいあり方と出会うことを目指しているということである。

 今回お話を伺った中で最も印象的だったのが、「合理的配慮」よりも「合理的調整」を考え方の根本においているということである。配慮ももちろん必要ではあるが、仕事に来ているというメンバーのために、仕事をしやすい環境へと「調整」を行うことで、関係性が整い、物事が自然と噛み合っていくという考えが根本にあると語っていたことである。
 暮らしランプは「組織内の単一的な固定化された正解」や「統制」を全面に出すのではなく、個々の違いを前提に、関係性と環境を調整しながら、成果と安心を両立させる組織運営を実践していると感じた。

 今後も周囲をワクワクさせる事業や取り組みの展開を期待するとともに、関係性と環境を丁寧に整える組織づくりがどのように進化していくのか、注目しながら、自法人の取り組みにも活かしていきたいと思う。(仲本順子)