2026年に創立40周年となる東京都ビジネスサービス株式会社は、東京都と株式会社システナの共同出資による第三セクター方式の特例子会社だ。設立当初10名だった障がい者雇用の社員数は123名(2026年1月現在)を超え、都内4拠点と2つの就労支援センターを展開するまでに成長している。
業務は封入・発送やスキャニングといったBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスからITサポート、システム開発など多岐にわたる。いかにして多様な社員の能力を引き出しているのだろうか。代表取締役社長 根津氏、ウェルビーイング推進室 室長代理 和地氏、管理部所属で全国アビリンピック金賞を受賞された稲葉氏からお話を伺い、対話を重んじ、好循環を生む組織づくりの真髄を探った。
現代のビジネスシーンにおいて「頑張れ」という言葉は、時にプレッシャーを与えかねず、慎重に扱われる傾向にある。しかし、同社が掲げるスローガンは極めてストレートな「私がガンバレば、ハッピーになる人がきっといる。」だ。一見すると時代に逆行するかのようだが、実は多くの障がいのある求職者の心を捉えているという。根津氏はこの真意について、決して根性論を強いているのではないと強調する。
同社では、障がいの有無にかかわらず、すべての社員が仕事を通じて社会に貢献し、誰かの役に立っているという実感を共感の柱に据えている。自分の持てる力を発揮し、主体的に社会と関わりたいと願う人にとって、この行動基準は「一人のプロフェッショナルとして期待されている」という力強いメッセージとして響くはずだ。障がい者雇用において「配慮」は不可欠だが、行き過ぎると、本人の成長機会を奪うことにも繋がりかねない。頑張ることの目的を、誰かのハッピー(社会貢献)に結びつける同社の姿勢は、働くことの本質的な喜びを再確認させてくれる。
同社は業務の90%を一般市場から受注するなど、親会社からの業務切り出しだけでなく、外販での事業活動を積極的に実践している。この自立経営を循環させているのが、同社が重視する「プロフィットチェーン」という考え方だ。
で活躍できる可能性を高めている。
入社してからは、管理者による定期的な1on1が設けられている。ここでは、業務を通じて達成したいことやキャリア、挑戦したいことなどをメンバーと一緒に設定しているという。さらに希望者には週に1回ショート面談を別途設けることも可能だ。このショート面談では、業務に関する話だけでなく趣味や生活についても共有されており、メンバーと管理者の関係構築の機会になっている。
図で示したサイクルを回し続けることで、障がい者雇用は「守られるべき存在」から「仕事において価値を生む存在」へと成長を遂げている。また、担当者の経験則や暗黙知に頼る傾向のある障がい者雇用の現場において、同社では、ITを駆使し、さまざまなデータを集めて数値化。定量的に状況の把握ができるよう、仕組みの「見える化」に注力している。
データベースを活用することで、個々の能力を活かしながら受注業務の質と効率の向上を実現。トラブル対応や人事評価、日々の体調管理に至るまでの仕組みが整い、目標達成に向けた具体的なステップも明確になったという。こうした独自のデータ経営によるノウハウの共有が実現する背景には、特例子会
執務エリアを見学すると、入り口にある大きなモニターが目に留まる。そこには、受注しているプロジェクトの進捗のほか、クライアント企業の紹介スライドも表示されている。これは、企業から封入発送業務を請け負った際に、チーム内でその企業について調べ、その業務が社会の中で持つ意義や、クライアントの事業全体における役割などをスライドにまとめたものだ。同社では、業務に対し作業手順の指示だけにせず、全員で「仕事の意義」を共有する時間を必ず設けている。すると、封入が一(いち)作業では終わらず、お客様に対する役割意識が芽生えやすくなるという。「チーム内での目線合わせは重要で、オリエンテーション時と納品後に必ず振り返りの時間を設けています」と、対話を通じたチームづくり、目的意識の醸成について根津氏は語る。 また、業務の進捗状況や目標達成時間は毎日スプレッドシートに記録、誰でも閲覧可能な状態で可視化されている。自分の仕事がチームにどう貢献しているかが明確になることで、主体性を引き出すことにも繋がるという。こうした取り組みは、障がい者雇用の現場において、自らの役割に誇りと責任感を実感する工夫として参考になるのではないだろうか。
執務エリアは仕切りのない開放的な空間で、10名程度のチームごとに「島」を作って座る。それぞれの島の端には小さなラック付きのデスクがあり、その島で働くスタッフが持参した水筒やペットボトルが置かれている。この “給水スポット”は、作業中の水濡れ事故を防ぐ工夫であると同時に、スタッフ同士の対話が生まれる拠点にもなっている。また、ボッチャを楽しめるスペースやネイルサービスといった福利厚生も、日常的なコミュニケーションを促進する一助となっている。 同社では「DE&Iヘルプデスク」ブースを設置し、メール・チャット・電話・対面でいつでも相談できる仕組みも整えているが、それ以上に、同僚や上司へ気軽に相談できる心理的ハードルの低さが保たれている。日常的なコミュニケーションが自然に機能し、心理的なバリアを対話で解消していく環境づくりは、どの企業にとっても参照しやすいだろう。さらに、社内には車椅子利用者向けのバックミラーや点滅ランプなど細やかな設備が見られるが、取材中に「合理的配慮」という言葉は出てこなかった。同社にとって環境調整は当然の前提であり、焦点はすでに「能力の最大化」へと移っていることも窺い知れる。
こうした「対話」と「挑戦」を推奨する企業風土から、顕著な成果が生まれている。その象徴が、全国アビリンピックのプログラミング部門で金賞に輝いた稲葉氏だ。入社当初は発送業務担当だったが、自発的に業務効率化プログラムを開発し、上司に提案。「やってみてよ」と背中を押されたことが、金賞受賞や現在の研修講師としての活躍に繋がった。この成功体験は、さらなるプロフィットチェーンを生んでいる。稲葉氏の活躍に憧れ、入社を希望する若手スタッフが現れたのだ。加えて、アビリンピックを見学していたウェルビーイング推進室の和地氏が、別の競技種目から着想を得て、障がいのあるネイリストが活躍する新規事業を立ち上げるなど、個人の挑戦が波紋のように広がり、組織全体の可能性を押し広げている。
個人の特性や希望を活かす姿勢は理想的だが、組織として感じてしまう「わがまま」との線引きをどう考えるかについて教えてくれた。根津氏は、すべての要望を叶えるわけではないとしつつも、こう話す。「たとえば、人がいるからといって5人でできる仕事を7人でやるよりも、5人でやる仕事は5人でやりきる環境を用意するほうが、結果的に個人の力も組織の力も向上します」。この考え方は、現場での対応にも現れている。和地氏は、体調が不安定だったスタッフを、本人の得意業務へ担当変更した際のエピソードを明かしてくれた。得意を活かすことで感謝される経験が増え、勤怠が劇的に改善。見違えるように意欲的になったという。
根津氏は最後にこう結ぶ。「仕事に誇りを持つことに障がいの有無は関係ありません。誰もが社会に貢献すべき存在だという認識を広めていきたいです」。2.79%という法定雇用率を上回る数字は、同社にとって通過点に過ぎない。数字の裏にある、一人ひとりの「ガンバレ」を「ハッピー」へ繋げる対話こそが同社の真髄だ。本人の力を信じ「どう社会に貢献したいか」を語り合う。それこそが組織を変える好循環の起点であると感じた。(三木雅子)
令和7年度
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