株式会社 LIXIL Advanced Showroom


 株式会社 LIXIL Advanced Showroomは、2013年に株式会社LIXILと、総合人材サービス企業のアデコ株式会社の合弁会社として設立。主にショールーム運営のアウトソーシングサービスを行っている。同社では「社員みんなが笑顔ではたらく会社にしたい」との想いを込めたスローガン「Your Smile, Our Smile」を掲げ、ダイバーシティを推進している。障がい者雇用ではそのスローガンの頭文字を組み合わせた「YOurS(ユアーズ)」というネーミングを用いて活動を行い、2026年2月に10周年を迎えた。令和7年度の障害者雇用エクセレントカンパニー賞(東京都知事賞)を受賞するなど、社内外で高く評価されているYOurSだが、具体的にはどのような配慮や対話が実践されているのか。YOurSの活動を推進している経営管理統括部ココロラボ 室長 八重樫氏と、同部署で八重樫氏の右腕として活躍するYOurSメンバー(障がい者雇用)の岡井氏にお話を伺った。


障がい者雇用躍進の根幹は、企業風土の「笑顔で働こう」にあり


 同社の障がい者雇用の取り組み「YOurS」は、単なる法定雇用率の遵守を目的としたものではない。その根底には、スローガン「Your Smile, Our Smile(あなたの笑顔が、私たちの笑顔)」があり、顧客だけでなく働く全社員をハッピーにしたいという強い想いが込められている。たとえば、社内では健康課題へのアプローチとして6種類のハーブティーを導入し、各自の体調に合わせて選べる仕組みを構築するなど細やかなケアが日常化している。こうした取り組みは従業員同士の会話のきっかけとなり、リラックスできる環境づくりにも寄与している。「弊社では女性活躍、子育て応援、障がい者雇用、LGBTQ+フレンドリー……それぞれを分けてはいません。”全社員をハッピーにしたい”。それだけです」。そう話す八重樫氏は、かつて社長秘書を務めており、そこで経営層の視点を間近で学んだ経験を経て2016年にはダイバーシティ推進室の立ち上げメンバーとして、経営とショールームを繋ぐ役割を担うこととなった。当時、上司から授けられた「みんなが幸せに働くために会社ができることを考えるんだよ」という言葉が、現在の活動の指針となっている。


「休まない貢献」と「過保護にならないサポート」で信頼を積み上げる


 しかし、10年前のYOurS発足当初は、現在のように周囲の理解を得るのは容易ではなかった。転機となったのは、YOurSメンバーが「休まない貢献」を意識し体調を整えて懸命に働き続けたことだった。同社は女性社員が9割を占め、育児等による急な欠勤や早退も少なくない。そうした際、常にその場に「いること」で、業務のフォローやダブルチェックを担うYOurSメンバーの貢献は、次第に周囲に認められるようになった。
 一方で、メンバーの心身の負担を支える仕組みも整えられている。入社・復職時には、 八重樫氏の所属する本社部門のココロラボが、各ショールームや部署で働くマネージャーや、働く仲間に3ヶ月間伴走する。その後は直属のマネージャーとYOurSメンバー間で1on1の実施や、「キモチプラス」(障がい者雇用における企業の負担軽減と当事者の勤怠安定、生産性向上を実現する定着支援ツール)による日々の体調確認が行われる。ただし、どうしてもショールームや部署内で問題が解決しない場合はココロラボが介入する。
 属人化にならないよう、組織の仕組みとして、さらには社風として根付くようにこのスタイルを大切にしてきた。だが、最初からそのような仕組みや社風があったわけではない。「今、そのようなフェーズに来たというのが正しい。最初は推進担当者が引っ張る形でやってきて、今はそれが必要ないところまで成熟してきたので、次のステップとして、脱属人化を目指して取り組んでいます」と八重樫氏が話してくれた。ココロラボを介在せずともショールームや部署内で皆が安心して働くことのできる仕組み、環境づくりが根付いていくことで、障がいの有無にかかわらず「みんなが幸せに働くために」と考える組織風土がさらに醸成されていく。
 そのきっかけは、ある“部署での出来事”だった。経営層が日々目を通す重要データを扱う担当者が急きょ不在となり、代わりに業務を引き継いだYOurSメンバーが、滞りなくやり遂げたのである。この一件を境に、「YOurSメンバーに任せられる仕事には限りがある」という周囲の見方が揺らぎ、個々の強みを前提に役割を広げていく流れが加速していった。


新卒採用のYOurSメンバーが属人化していた業務を改善


 その後、2025年4月に専門チーム「ココロラボ」が設立され、2022年入社の新卒社員である岡井氏らがピアのサポートに加わった。岡井氏は、八重樫氏一人にサポート業務が偏っている現状を危惧し、八重樫氏が不在となる期間を「チャンス」と捉えて業務の仕組み化に着手した。岡井氏は全国のYOurSメンバーとオンラインで結び、現状の課題点の洗い出しや業務のリスト化を主導。
 この取り組みにより、属人化しないためのマニュアル作りが現在も継続されている。「仕方ない」と諦めるのではなく、「どうすれば改善できるか」と思考を切り替え、自発的に一歩を踏み出した岡井氏の行動と、それを実現したチーム力。このエピソードには持続可能な組織づくりの大きなヒントがあるのではないだろうか。


対話に必要なのは時間をかけて本人の意欲を引き出すこと


 「ショールームや部署のメンバーに対し『合理的配慮』という言葉を使ったことは一度もない」と話す八重樫氏。大切にしているのは、配慮を“特別扱い”とするのではなく、YOurSが活躍するために「どうすればできるか」を一緒に考える姿勢だ。ショールームや部署のマネージャーからは「特性への配慮として受け止めるべきか、それとも成長のために背中を押してよいのか」といった相談も寄せられるが、その判断もまた対話の中で擦り合わせていく。
 こんな出来事があった。土日営業の同社で「土日休み」を希望する社員がいた。生活リズムを整えるために平日中の連休など代替案を提示し、それでもなお「土日でなければ」となるなら、求めているものが配慮ではなく、「こだわり」や「わがまま」に寄っている可能性が見えてくるという。
 ただし、そこで突き放すのではなく、時間をかけて対話を重ねることを重視する。 「どうしたらできるか」を問い続ける姿勢や時間そのものが、本人の「やってみます」という自発的な意欲を引き出すからだ。「最初は失敗することもありますが、試行錯誤を繰り返し、リカバリーの時間を与え、本人が持つ力を信じることで人は育ちます。本人の努力を促し成長へ繋げるサイクルに、障がいの有無は関係ありません」と八重樫氏。
 先の岡井氏が行った仕組み化もそうしたサイクルの1つだが、コロナ禍に行った業務のお話も印象的だった。当時ショールームが一時閉鎖し、手持ち無沙汰になりかけたことがあったという。そこで、過去に回収したショールームのお客様アンケートの結果を、YOurSメンバー全員で精読し直し、それぞれが意見を出して対話しながら改善策を検討した。その中で「無料のコーヒーを飲んで良いのかわからなかった」というアンケート結果があり、YOurSメンバーから「フリードリンクである旨の掲示を設けてはどうか?」と提案があった。その後、ショールームが再オープンした際に、実際に掲示し、フリードリンクの利用が促進したという。
 チーム内での対話を起点としたアクションの積み重ねが、組織(チーム)の成長へと繋がっていく。それは障がいの有無にかかわらず「働くこと」のあるべき姿、目指すべき姿ではないだろうか。同社の「みんなが幸せに働くために」という考え方がひたむきに、丁寧に、日々実践されていることに感動を覚える。


障がい者雇用は少子高齢社会の“働く”に必要な視点が詰まっている


 インタビューの終盤、八重樫氏は「障がい者雇用から得られた知見は、これからの日本社会全体において極めて重要な示唆を与えてくれると思います」と話してくれた。今後ますます少子高齢化が進み、労働力が減少する中で、限られた人材をいかに活かすかはすべての企業にとっての至上命題だ。八重樫氏はそんな状況において「障がい者雇用で実践している丁寧な対話や配慮は、障がいのない社員にとっても必要なものですよね。このことに気づけるかどうかが、その会社が生き残るための鍵になるはずです」と語る。
 障がい者雇用を「国から定められた義務」「特別な配慮が必要な存在」として社内で切り離して考えるのではなく、変化の激しい時代に対応するための「きっかけ」として捉え直す。この考え方は同社に限ったことではなく、社会で働く全員に求められる視点だ。多様な特性を持つYOurSメンバーと向き合い、どうすれば共に価値を創出できるかを問い続けてきた対話の実践は、これからの企業経営におけるスタンダードになる気配を感じた。(三木雅子)