2017年創業の株式会社タイミーは、「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー 」をはじめ、「はたらくこと」に関する事業を展開している企業である。「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」をミッションに掲げた同社の障がい者雇用は、単に障がいのある社員を「支援」する場ではない。 障がいのある社員が社内で活躍できる状態を目指すために、丁寧な職場づくりが行われている。
同社の障がい者雇用の中核を担うのが、「スーパーサポートチーム」(通称:スパサポ)である。スパサポは、障がいのある社員が社内業務で力を発揮できるように、仕事の受け方や任せ方、日々のコミュニケーションまでを一体で運用する“専任チーム”だ。
スパサポには、障がいのある社員(通称:メンバー)と、業務の受け付け・調整・メンバーフォローを担う管理者(通称:管理者)が所属する。メンバー数は2023年6月の5名から、2026年2月には48名へと拡大した。働き方はフルリモート、ハイブリッド、フル出社のいずれかで、社内各部署から依頼される業務をスパサポが受託し、内容や状況に応じて管理者がメンバーに割り振る。メンバーによっては、総務など特定部署の業務を専属で請け負う形もとっている。
まずスパサポの最大の特徴として、採用や入社前の対話実践に非常に力を入れている点が挙げられる。障がいのある社員が採用されメンバーとして働き始める前に、会社と働きたい障がいのある方が一緒に、仕事への期待値をめぐるすり合わせを行うことがとても重要だという。
たとえば採用では、スパサポの管理者は自らの足で全国の就労支援A型・B型事業所や就労移行支援事業所などにアクセスし、特に採用の際にはどの所在地でも応募者本人と直接会うという方法で、障がいのある社員の採用を社内の担当者が中心となって実現している。また就労支援事業所に対して担当者が一箇所ずつ企業説明に回り、同社の企業理念や障がい者雇用に対する考え方、業務内容をきちんと伝えることで、より同社に合う人材を探すことができているそうだ。
そして、採用を決めた後の対話も重要と考えている。特にこれから入社する障がいのある社員と面談を行い、仕事に何をどれくらい求めるのか、また苦手なことなどを正直に共有してもらう機会を設定している。この時、採用前の面接とは違い、既に内定しているので自らを着飾る必要がなく、より本音で「ぶっちゃけてもらう」ことができるという。これから働く上で企業と社員がお互いに共有しておくべき必要なことを本音を話し、仕事や職場に対する期待値を十分にすり合わせる。これが、メンバーとして入社した後に職場で活躍できる可能性を高めている。
入社してからは、管理者による定期的な1on1が設けられている。ここでは、業務を通じて達成したいことやキャリア、挑戦したいことなどをメンバーと一緒に設定しているという。さらに希望者には週に1回ショート面談を別途設けることも可能だ。このショート面談では、業務に関する話だけでなく趣味や生活についても共有されており、メンバーと管理者の関係構築の機会になっている。
こうした面談が定期的に仕組みづけられた上で、職場内での細やかなコミュニケーションの工夫も重視されている。たとえば、管理者はフル出社で勤務するメンバーに対してすれ違った時など折を見ては声をかけ、雑談から業務内容まで直接話をしているそうだ。一方フルリモートのメンバーには必ず朝と昼の1日2回はオンラインでカメラを繋ぎ、顔を会わせてのコミュニケーションを取っている。また、その他の時間もチャット
を活用して連絡を取り合うようにしている。
このように、そもそも職場内におけるコミュニケーションの量と頻度が多いことにより、管理者は、メンバーの小さな変化などに対して、細やかな気づきが得られるようになっている。万が一トラブルなどが起きていたとしても、その問題が小さいうちに対処できる。「合理的配慮」についても、入社前に確認はし合意はするものの、管理者曰く「日常の中で自然とすり合わせができているので、これまで配慮事項などについて仰々しく話したことはない」そうだ。「何気ないコミュニケーションをたくさん発生させる仕組み」があることによって、職場に必要な対話が十分に生まれていることが窺える。
さらに管理者は、こうした仕組みによって上がってきたメンバーからの発信を重視していた。たとえば管理者の1人である三田さんは、メンバーから発信されたことを一度は全部「信じてみる」と言う。メンバーからの発信に対して即座にその場で判断を下すのではなく、一度その言葉を受け止め、咀嚼してみようという姿勢の管理者がいることは、メンバーの心理的安全性が保たれることにつながる。メンバーは自らの状況を発信する際の抵抗感を減らすことができ、より本音で自身の状況や要望を伝えやすくなっているのだと感じた。
管理者は、社内業務を積極的に受け入れることで他部署との連携を図ってきた。特に、最初は頼られる部署として存在感を示すために、頼まれた仕事はなるべく断らず、できる限り早く対応することを意識してきたそうだ。「スパサポって良いよね!」と社内で評価されることを目指してきたことで、社内からの信頼の獲得に成功し、今では他部署からスパサポにたくさんの仕事の依頼が来るようになったという。
次に業務を管理者はメンバーに割り振っていくわけだが、何よりもまずはそのメンバーの得意を起点とした業務設計を行うという。そのメンバーが得意とする業務に従事してもらうことで、より能力を発揮できるように調整を行う。また、もし苦手な業務があった場合は、単にその業務を減らすのではなく、減らした代わりに得意な業務と組み替えるそうだ。適材適所とも言えるような割り振りにより、それぞれのメンバーが戦力となれるような体制づくりを行っている。
さらには段階的に、メンバーが他部署から直接仕事を受けたり、連絡を取ったりするよう業務の流れを変化させるそうだ。スパサポに所属しつつも、徐々に直接他の部署に入り込んで仕事をすることで、メンバーはさらに同社の人材として活躍の場を広げることができる。スパサポがメンバーの得意な仕事の見極めを行い、そこで見つけた得意な業務を起点として仕事の場や種類を広げることで、メンバーは安心して意欲的に仕事に取り組むことができている。
今回の取材では、スパサポのメンバーとして活躍するAさんにもお話を伺った。Aさんは現在、フル出社で総務チームの業務を担当している。最近は総務チームの中で任される仕事が増えているそうだ。Aさんは、こうして仕事を頼まれることは「会社の中で自分が頼ってもらえていること」であり、仕事を全うし、スパサポとして活躍できることが「この会社にいてもいいんだ」と思えることに繋がっていると語る。今では、他の社員にもっと顔を覚えてもらうことで、より活躍の場を広げたいと志すAさん。さらなるキャリアアップを目指して、現在はAIを活用するための勉強にも励んでいる。
こうしたAさんの安定的な仕事の取り組みの背景には、「コンディション管理シート」や「日報」を通じ、管理者がメンバーの状態を細かく把握していることが挙げられる。「コンディション管理シート」はGoogleフォームを活用しており、自由記述の項目を設定しており、「管理者に伝えたいこと」を書いてもらっているという。こちらは管理者以外には共有されないため、メンバーは自身の状況を打ち明けやすくなっている。また「日報」はSlackに投稿をしているがありのままを記載するメンバーが多いため、もし気になる内容や心配な内容が書いてある時は、管理者からメンバーに翌日に声をかけており、何か大きな問題が生じる前に解決に向かって手を打つことができるという。
このような安定した環境があるからこそ、スパサポのメンバーはキャリアアップを志望することができたそうだ。キャリアップのために求められるものの中には、新しい知識の習得や、これまで苦手だったため担当していなかった業務への対応も含まれてくるが、管理者がメンバーの意思やペースを十分に聞き取りながら進めることで、こうした苦手や新しいことへの挑戦がむしろメンバーにとって良い学びの機会になることがあるという。一方で、キャリアアップではなく今行っている仕事のあり方を安定的に続けたい、という選択をすることも可能だ。
面談や雑談を通し、本人を起点とした仕事への期待値を明確にし、それを丁寧に擦り合わせることで、単に「頑張れ」というのではなく、どうすれば本人の希望する仕事のあり方を実現できるのかを一緒に模索することを重視している。
障がいのあるメンバーが社内の戦力として活躍できるよう、業務や環境をどう整えるか――その発想で、同社はスパサポというチーム体制を築いてきた。スパサポでは、メンバーが本音を伝えられる対話の場を用意し、管理者とメンバーの関係性も日頃のコミュニケーションで育てている。こうした対話を通しての設計と運用こそが、同社の障がい者雇用のポイントだった。特に、入社の前後で本人のキャリアや仕事への期待値を十分に聞き、会社側とその期待値を合わせていくこと、そして管理者がメンバーからの発信をしっかりと受け止めていることが重要である。
障がいのある社員が活躍するために、社員それぞれの仕事に対する率直な期待値を汲み取り尊重しながら、企業側の期待値と合わせていくという対話実践は、障がい者雇用にはもちろんのこと、多様な人がそれぞれの力を発揮できる働き方を実現するうえで、欠かせない要素だと考える。(江頭早紀)
令和7年度
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
障害者就労の合理的配慮に向けた建設的対話のプロセスを学ぶ研修事業
〒145-0062 東京都大田区北千束3-28-9VANフラッツ401
TEL:03-6451-7345 / FAX:03-6451-7346
[email protected]