福岡県の春日大野城リサイクルプラザ。ここで行政から委託された廃棄物処理を担っているのが、障がいのある社員が中心の民間企業、障がい者つくし更生会だ。法定雇用率で換算すると、ダブルカウントを含んで107.9%(2026年2月現在)。公的な福祉助成金や補助金に頼らず、民間企業として事業を運営している。さらに驚くのは、その品質だ。同種の処理施設と比較しても設備の維持状態や最終処理の品質は全国トップクラスと評価されている。
なぜこのような会社が成立するのか。不燃性廃棄物の受け入れと中間処理を行う施設の中で、ビン・カン以外の燃えないゴミ、年間1000tを手選別しているのは第三選別班だ。社員たちがベルトコンベアの前に並び、流れてくる不燃ごみの中から危険物などを素早く取り除いていく。選別もれは資源の引き取り拒否やピット内の事故を招く可能性もある。社員は全員、このリスクと発生時の影響を理解している。業務の本質を理解する姿勢が社員に浸透しているのだ。
この現場を支えているのは、設備や作業手順だけではない。同社をけん引してきた那波専務にお話を伺った。「最初からうまくいったわけではなく、トラブルもありました。彼らと一緒に運営が成り立たないと会社がつぶれてしまう。どうすればいいのか、その都度考え、少しずつ今の形になりました」。
那波専務はいつも社員とどのような対話をしているのだろうか。
たとえば悪い言葉を使う社員がいても急に注意することはしない。「マイナスな物差しは使わず、否定もしません。最初は、『この人はこの場面でこのように考えるんだ』という情報として受け取ります」。そして尋ねていく。『その言葉はなぜ使うようになったんですか?』『どんな時に出てくるのですか?』『相手に〇〇と伝わっているけど、それは分かって使っているのですか?』。
ときにはその社員がこれまで他者から納得するような対応をしてもらえなかった過去が分かったりする。もし自分が同じ体験をしたらそうなるかもしれない、と共感し、なぜ彼が悪い言葉を使うようになったのかに理解が及ぶ。那波専務が『こういうことですか?』と整理して問い返すと、社員は『そうです!』と納得し、他者に理解をしてもらえたという実感を得る。
このやりとりは社員を“甘やかす”ものではない。たとえば仕事をするとはどういうことかを明確に伝える。「トップレベルのサービスを渡すことで、お客さんが喜んでありがとうと言って代金をもらう。この状態が『仕事ができている状態』です」。ここでも那波専務は社員に問いかける。『なぜお客さんはありがとうと感謝すると思いますか?』何もしなければ、相手が先に「ありがとう」と言うことはない。自分が先に、“相手にとっていいこと”をするのが仕事だ。那波専務と話した社員は、新たな気づきに驚かされるが、嫌な気持ちではなく、自然に取り入れたくなる。感謝したくなる。話した後に必ずそのような感覚が残る。
もちろんちょっとした社員同士のすれ違いや、プライベートの課題から話し合いになることもある。そんなときも落ち着いて問いかける。『今の状況を見て、お客さんはありがとうと言ってくれると思いますか?』。社員は脱線に気が付く。普段から話せる関係性があれば、小さな問題が生じても大きなトラブルに発展することはないのだ。
つくし更生会には特別支援学校などから実習生が訪れることも多い。そして保護者や先生が驚くのは、実習後の変化だ。初めは緊張や疲労感で注意が散漫になってしまう実習生が1週間後に、見違えるような機敏さ・正確さで業務をしている。関係者も本人も、喜び、仕事をするとはどういうことか学んで、納得して帰っていく。
実習生を受け入れた第三選別班の社員さんが教えてくれた。「実習生に自信がついて、自分にもできるんだという体験を喜んでいるのが感じられました。私たちも一緒に成長を喜んでいます」。個人に合った仕事の覚え方を見つけること。そして一緒に成長を喜ぶこと。自分がしてもらったことを、次の人に同じように返していく。社員達の日々の関わりが「この会社で働きたい」と思える文化を生み、結果として同社の運営の品質を支えている。
この姿勢は、社員だけに向けられているわけではない。クライアントである行政、近隣の住民たち、実習生の保護者、支援学校の教諭、近隣の福祉事業者。さらに全国から見学に訪れる経営者や研究者、現場担当者たちへと広がっている。
つくし更生会が大野城リサイクルプラザの運転を受託したのは1985年。約40年の実践が、一朝一夕ではまねできない価値を築いている。この会社の経営の原理は、とてもシンプルだ。“相手にとっていいことをする”。それを高い質で、すべての人との関係の中で実践しているのだ。社員はもちろん、行政や地域住民、全国からの見学者たちが、同社のことを語りたくなるのは、「相手の立場で何が価値になるのか」を考え抜かれた関わりの帰結だと感じられる。
対話には時間がかかる。しかしこの会社は「必要なコスト」と考えている。対話がチームの成果や企業価値を生むからだ。そんなことが実際に可能なのだと感じさせてくれる会社であった。(高橋亜矢子)
令和7年度
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
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