信頼を大切にした事例紹介

先駆的な取り組みを行っている企業や法人20ヶ所にインタビュー調査をし、「信頼」という視点からまとめました。
これら20事例は、障がい者雇用のみならず、ダイバーシティや多様性を祝福する哲学がたくさん含まれていました。
 また、今回のインタビューでは、「長く働き続けることを10としたときに、『本人のセフルケア力』、『現場のサポート力』、『外部の支援力』(※)のそれぞれの理想的な割合はどのようになると思いますか?」という質問をし、その理由とともに回答してもらいました。この質問には答えがあるわけではないのですが、それぞれの企業や事業所の考え方が表れているように思いました。
 本事例に書かれてある内容は、特に記載がないものについては調査時のものです。

※出典:働くしあわせJINEN-DO「セルフケア」の資料より






周囲の信頼が可能性を生む

〜家族へのインタビュー調査から〜 
船谷博生(NPO法人ディーセントワーク・ラボ)

 現在、一般企業での障がい者雇用が急激にスピードアップしていますが、近年まで、福祉的就労(障害者総合支援法による就労系サービス)が障がい者就労の中心でした。しかし、社会福祉はあくまでも生活困難な状態を解決する社会的機能であるため、就労支援が必要な状態を生活困難な状態と捉えられない事業所では、収益をあげて賃金を上げることが困難な状態でした。そのため、その先を目指して技術を体得しようとする積極的な訓練はあまり行われず、その場を見守る支援が多かったのではないかと思います。そのことは結果的に「どうせできない」と支援職も、親も、そして本人も諦めていたのではないかと思います。しかし、失敗を積み重ねて初めて、人は成功することができると考えます。障がいの有無に関係なく、失敗してもその原因を追求したり、反省して改善したりすることで少しずつ成功に近づくのです。
 また、就労の場だけでなく、自宅での家族との関係においても、積極的な訓練やチャレンジが行われているのか、また、行われていないとするならば、その原因と解決の糸口を探るべく、今回、20人の親にインタビュー調査を行いました。このことで見えてきたことは多数ありますが、なかでも多くの方に見られたのが、「乳幼児期の障害『告知』の瞬間から現在まで様々な葛藤が続いている」ことでした。その他、教育現場ではインクルージョンが制度的に進み始めていますが、周囲の障がいのない子どもの親の理解が得られない、悩みを共有できないことから孤立感を感じているなど、解決すべき課題も多く見えました。そして、そこに共通して言えることは「理解」の必要性であると感じました。当事者も関係者も第三者も関係なく、相互理解から始める必要があると思います。
 他方、障害者権利条約に批准する前後から、「意思決定支援」「自己決定」という言葉を多く聞くようになってきました。この決定を行うためには、「自分のことを自分で決める」という行為の素地を育む必要があります。そのような視点からも、また職業生活の質(QWL)を向上させるためにも、障がい者本人が自分で選び、失敗を積み重ねる行為が必要ではないかと考えます。そのような機会を作るためには、まずは相互に相手の気持ちを理解して、信頼することが必要であると思います。これがなければ彼らの可能性が可能性のまま放置されることとなり、花開くことが難しくなってしまうのではないでしょうか。相互に信頼できる関係ができるよう、当事者や周囲の理解はもちろんのこと、制度的なサポートも必要であると考えます。